君に会いに行くよ, 他
■
もう、振り向いてなんて言わない
■
君に会いに行くよ
■
ああもう、いじくらしい
■
髪を切った
■
夏の夜の音
■
いつか笑って歌える日
■
料理欲
■
コンロのカマスが焼けるまで
■
ひかりません
■
洗濯欲
■
時給ミルキー1個
■
夏に負ける
■
もう少しだけ、降っていて
■
やっぱりモカが好き
■
平均点よりちょっと上
■
別に大した事じゃない
■
白いお皿に映えるもの
■
由来は秘密
■
カルピスは薄めで
■
少し酔ったのゴメンなさい
■
お酒には気を付けて
■
グリーンカーテンの裏側
■
砂糖壷
■
小指に力を込めて
■
朝のきまり事
■
ココロはどこにあるの?
■
風邪をひいたらカレーを食べる
■
お尻をクイッと
■
私の扉は内開き
■
お弁当箱の再就職
■
決めポーズは見逃して
■
角砂糖が切れた朝
■
最後のビール
■
男の台所
■
オニギリ勝負
■
女は台所
■
流しのマット
■
パンを食べ尽くせ
もう、振り向いてなんて言わない
いつも待ってばかりだ、私は。
朝の通学路
いつもより早く着いた教室で
時々独りで食べる昼食
終礼から教室を出るまでの一瞬
あなたは授業中、外ばかり見ている。
数学が得意で、社会の時間は資料集を丹念に読んでいる。
罫線のない無地のノートに綺麗な字を書く。
どうして私を見てくれないの?
こんなに想っているのに。
言葉にできないこの気持ちは、だから届かない。
あなたが早く、私を見つけ出して。
そうしたら、世界の全てが変わっていくのに。
心の中でいつもつぶやく、
お願い振り向いて、私を見つけて。
奇跡は起こらない。
偶然は都合よく私たちを出会わせてくれない。
落としてしまったハンカチも、
他の誰かがひろってしまう。
雨のバス停も人が一杯。
このままずっとすれ違って終わってしまうの?
でも、もう嫌なの。
もう待たないと決めた。
私があなたを見つけたんだもの。
だからもう、振り向いてなんて言わない。
勇気が貯まるにはまだ一月くらいかかりそう。
もうすぐ私の気持ちを言葉にしてあなたに伝える。
だから、夏が始まる前に世界は変わるはず。
きっと今年は忘れられない、
夏になる。
君に会いに行くよ
君に会いに行くよ
幾つもの偶然と、それより多くの必然で、
奇跡のように出会った私たち。
彼女ばかり見ていた君、
私はまるきりオマケだったね。
ただ、驚いていた、この不思議。
君に会いに行くよ
彼女は先に独りで帰ってしまった。
あの娘に何も伝えられず、
途方に暮れていた君。
二つの世界はあまりにも遠かったよね。
つれて行ってあげる、私たちの星へ。
君に会いに行くよ
よかったね、あの娘に会えて。
想いの丈を伝えられて。
でも、云ったじゃない?
あの娘には彼氏がいるって。
落ち込まないで、よくあることでしょ。
君に会いに行くよ
いいかげん、下を向くのをやめて、
私まで落ち込んでしまうわ。
元気を出して、いっしょに行こうよ、あなたの星へ。
でもね、間違えないでね、
これは恋じゃないんだから。
君に会いに行くよ
300光年の距離を越えて、
千年の歴史を飛んで。
防疫システムなんて知らないよ。
すぐに覚えるわ、言葉なんて。
今の、この想いを君に伝えに行くよ。
ああもう、いじくらしい
ああもう、いじくらしい。
キミは優柔不断で、考えすぎで、
いつも一歩を踏みだしてくれない。
あと一言を言葉にしてくれない。
そこはアレじゃない、
キミがリードしてくんなきゃ。
ちょっと待ってよ、そうじゃないでしょ?
折角の日曜に、こんないい天気なのに。
あーヤダ。
私の左手がキミの右手を握る。
乱暴に走り出す、前だけを見て。
引っ張りまわすわ、ついて来てよね。
私の好きにさせてね、今だけは。
髪を切った
髪を切った。
どうしてなんて訊かないでよ。
梅雨が明けたから、じゃ足りない?
失恋しなきゃ、切っちゃイケナイ?
肩に少し持たれるくらいだった髪。
時々、ゴムで繰々るほど。
ちょっとだけ思いきって、
いつもより短くした。
後ろを少しカリアゲてやった!
これでもう、頭クシャクシャされても平気。
効果半減、ザマーミロ!
「もっと伸ばせよ。」
なんて、二度と言わせない。
髪を切った。
どうしてなんて訊かないで。
アンタにだけは聞かれたくない。
夏の夜の音
頭上でドンと音がする.
大っきな衝激が体一杯に降り掛かる.
パラパラと音がするから,
赤や青にキラメキながら,
光が拡がっているのね.
私の右手を包む,
その左手がやさしいから,
隣の貴方は,
口を空いて音のする方を見上げてるね.
眼を閉じて,うつむいているのは私.
瞳を明いたら涙がこぼれ落ちそう.
だから今は,
そっと右手に力を込めるね.
いつか笑って歌える日
あのね ゴメンネ
今はまだ
声が震えて歌えない
ポッカリ空いた 心の隙間は
広くて向こう岸が見えません
こんなにアナタを 好きなのに
今はまだ早すぎて
沢山の時間と 多くの出会いが
ゆっくりと傷をふさぐまで
でもいつか時が来て
笑顔でアナタを声に載せるね
きっと笑って歌えるよ
だから ゴメンネ
今はただ
心の中で歌うから
料理欲
「なにこれ,おいしそー」
というのが食欲ならば,
「うわ,これどうやって作るの?」
が料理欲.
順番で考えると,
まず料理欲があって何かしら作る.
それを食べることで食欲が満たされる.
つまるところ,
料理欲は食欲に先立つものであり,
人の持っている最も大きな欲だ.
食欲は己の胃袋を満たすものだが,
料理欲は自らのみならず,
他人の幸せをももたらしてくれる.
こんな欲深かな人類だもの,
世界が平和にならないはずがないよね.
コンロのカマスが焼けるまで
重大発表がありますと宣言したので
今日はちょっといつもと違う
彼の部屋で週に一度の食事
出不精で遊び下手な私たちは
何気に会話も途絶えがち
もう5年になるのね
お味噌を溶かしながら ふと思う
プロポーズはいつかしら?
アナタはのんきにTVでナイターを見てる
水曜に一人で行って確かめた
産婦人科は緊張したんだから
もう少しだけ待っててね
コンロのカマスが焼けるまで
ひかりません
夏の日差しは厳しいぜ
友達と行った夏祭りは小学生
ゆかたで前髪を上げてみた
次の日から「でこめがね」と呼ばれ
一週間もしないうちに「でこ」で定着した
他のクラスの知り合いからも
プールの授業はちょっとヤかな
キャップをかぶるとよく分かる
中学校の時「ヒタイ ヒロシ」と名付けられ
その夏の注目を集めたものさ
風邪が流行る時期には
「熱計らせて」
と友達が額を寄せてくるし
昨日,部活の朝練で
「アンタのオデコは光りそうだな」
と同じクラスの男子に言われた
洗濯欲
洗濯物がない!
もとい,センタクできるものがない.
夏場のいいところは
センタクものがすぐに乾くこと
部屋干ししても アノいやな臭いもつきません
梅雨時に貯まったジメジメも吹き飛ぶね!
なので,うれしくてついつい洗濯機を回してしまう
ふと気が付くと
洗うものがない.
心待ちにしていたモータの回転音を何で代替できる?
この情熱をドコにぶつけたらいい?
何も下げるもののない物干し竿のやるせなさ
ああ,カンカン照りの晴天がうらめしい
こんな日には思い切り汗をかいて
明日のセンタクものを沢山こさえてやる
時給ミルキー1個
時給ミルキー1個
それが今日の荷運びに対する、私の値段だ。
大学、理系でも実験系では物を右左に動かすことも多い。
試料だったり、装置だったり、本だったり。
学科の共有物の場合には大変だ。
事務職員のお姉さん一人では、とても手が足りないので、
順番に講座を巡ってのお手伝いになる。
例えば、今日の私たちのように。
誰が言いだしたのか、皆は彼女を『姉(ねえ)さん』と呼ぶ。
どちらかといえばサバサバした性格だが、
アネキ肌やガテン系というほどでもないと思うのだが。
学生の私たちより少し年上という距離感からだろうか?
近くて、ちょっと遠い感じなのかもしれない。
こうして、私たちはお手伝いに駆りだされるのだが、
それが終わると『姉さん』は一人ずつにアメ玉をくれる。
ミルキーだったり、コーラ味だったり、
時にはキャラメルだったり、オカキだったりする。
特にこだわりはないらしい。
隣の講座のヤツが
「アメより焼肉がいい」
と言ったら、ニッコリ笑って軽くゲンコツをくれたそうだ。
これは院生から聞いたのだけど、
アメ玉代は講座費ではなく『姉さん』のポケットマネーだという。
Kと私はよく学科準備室へ遊びに行く。
そして『姉さん』とおしゃべりする。
『姉さん』はまた来たか、と手を休めることなく、
けれど話には付き合ってくれる。
Kがトイレに出て行って二人になった時、
会話が途切れて、私はアメ玉の入ったバスケットに眼がいった。
「お姉ちゃん、これ一個ちょうだい。」
『姉さん』は
「食べたかったら、手伝いしなさい。」
と笑った。
後で気が付いたのだけれど、
私には姉がいる。
もちろん、『姉さん』とは別人だ。
夏に負ける
クソッ、夏に負けたぜ。
女のくせに口が悪いといわれるが、
実のところ、品が無いのでしょうがない。
今年の夏はラブい青春するハズだった。
5月、ターゲットをヤツに決めた
6月、何気に話しかけ攻勢
7月、梅雨の合間にアタック
8月は海で遊びまくる。
キャッキャうふふはキャラじゃないので勘弁な。
パーフェクトな計画だったけどよぉ。
空梅雨がまずかった。
相合傘のチャンスを逃がしちまったよ。
開けてすぐ海開きだろ、時すでに遅かった。
オレは残念水着なんだよな。
中学まで水泳やってたから、
競泳水着が泳ぎやすくてイイんだよ。
サキは特殊な需要があるからヤメろと言うし、
一緒に行って買ったビキニは寸胴なオレには優しくない。
いいよなサキは、胸もクビレもあるしな。
オレには脚がキレイと言ってくれるが、
高校生はフクラハギなんか見ねえって。
ええクソ、夏祭りに浴衣でアタックだ。
もう少しだけ、降っていて
今年は猛暑で夏が熱い。
夕立ちがくれば涼しいけれど、
流石にこの暑さでは蒸し蒸しが増すだけね。
だからというわけじゃないけれど、
人より少し遅い盆休みに、クーラーの効いた部屋の中で、
ホットコーヒーを手に土砂降りの外を眺めていた。
いちおう二人分煎れておく。
郊外の住宅地の外れなので、
この時間はまだ帰宅する大人も少ない。
時々、部活帰りだろう高校生たちが、
傘を片手に急ぎ足で通り過ぎていく。
今日はちょっとすごい雨足だけれど、
ゲリラ豪雨というよりは、やっぱり夕立ちかしらね。
若さはバカさだ。
やべーやべー言いながら、傘もささずに、
自転車でかけていく男の子たち。
言葉とは裏腹に、楽しそうな顔で笑っている。
上を向いて口をいっぱいに開けているバカもいるぞ。
サッカー部のユニフォームとマネージャかな、相合傘が一輪。
こちらは仲良くゆっくりと歩いている。
なかなか視界から消えてくれないので、
ちょっとだけ、うらやましく思ったり。
あと1時間もすれば彼が帰ってくるのにね。
やっぱりモカが好き
新しいコーヒーの袋を開けた。
袋の中に鼻を突っ込み、思うさま香りをかぐ。
開けるだけでうっとりになれる。
なんて安上がりな幸せだろう。
グラインダに豆を投入して、
ゴリゴリとハンドル回し、
香り立つ匂いに、再び鼻孔がふくらむ。
お高い豆でなくて良いの。
スーパーのお徳用でも十二分。
やっぱりモカよね、柔らかい味わいが最高じゃん。
モカって名前もね、可愛らしくていいじゃない。
キリマンジャロなんてさ、
一体何語よ、って感じよね。
ブルーマウンテンてば、祖母方の苗字なの。
紙のフィルタの挽いた豆をならして、
笛吹きケトルの沸いたお湯を注ぎ込む。
一杯目は砂糖ナシで口を付ける。
甘くないのがいいよね。
初キッスはモカの味、
ちょっと調子に乗り過ぎた?
平均点よりちょっと上
私の成績は平均点よりちょっと上。
いつもそこそこで目立たない。
体育は少しひどいけど。
料理の腕前も平均点よりちょっと上。
とは言っても自称だけど。
でも、ほとんど毎晩作ってるからいいよね。
けれどお菓子は少し違うよ。
おさんどんは目分量でいいけれど、
甘味には計量が欠かせない。
弟たちを実験台と味見させる。
今日のクッキーは平均点よりちょっと上。
今の実力ではこんなもの。
私みたいなこんなクッキー、
明日は先輩にプレゼント。
別に大した事じゃない
年に幾度かお昼に風呂を沸かす。
湯舟に浸かり窓を開けると、
そこには陽の光を透かしたステンドグラスが見える。
別に大した事じゃない。
夜は暗くてよく見えないし、
朝シャワーだと向きが悪くて、やっぱり見えない。
だから、お昼の入浴は少しだけゼイタクだ。
別に大した事じゃない。
私だけの一人占めのとっておき。
秘密ってほどじゃないけど、特に誰にもしゃべらない。
それだから、人に指摘されるとちょっと腹が立つ。
別に大した事じゃない。
久し振りに友達が泊まりにきた。
夜勤明けで疲れてるようだから、朝からお風呂を沸かした。
ステンドグラスが見えるね、と彼が言った。
別に大した事じゃない。
白いお皿に映えるもの
目で食べて口で味わう、
とは言うけれど。
実はカラフルな料理はあんまり得意じゃない。
おばあちゃん子な私なので、
魚や煮物な和食が主食、
洋食はスパゲテーがいいところ。
イタリアン、フレンチそれって何?
やっぱ、地味な色合いが美味しそう。
アースカラーがいいよね。
実はカラフルな料理がちょっと苦手だ。
作るのもやっぱりそう。
赤や黄色のピーマンを、
キレイに炒めるのは難しい。
できたらできたで、
コレ食べ物?って気がするし。
決して料理が下手なわけじゃない。
実はカラフルな...
もういいよね。
由来は秘密
赤信号で止まっているとき、
気が付いたら、ナンバーが同じだった。
後ろの車に乗っているのは若いお兄ちゃん?
ナンバーを決めるのに手間取った。
自分の生年月日はダメらしい、
カードの暗証番号とかカブリがち。
結局、あの人の誕生日にした。
あの人がどの人かは言えないね。
車のナンバーは「803」
前の車に乗っているのは若い(?)お姉ちゃんかな?
19xxなら本人の生年だろう、大方。
3ケタは意味有り気だが分からない。
「803」は10数年前に勝手に決まった番号だ。
偶然だが苗字の「山」をとってヤマサンと読める。
車を変えた時、覚えるのが面倒で前のと同じにした。
皆にすぐ覚えてもらえるので、
悪いことはできない。
何で「803」にしたんだろう?
カルピスは薄めで
濃い目のカルピスはちょっとしたゼイタクだった。
兄弟4人で分け合うと、
濃い薄いでも一悶着。
会社帰りに飲みながら、
少しだけそんな昔話をしてた。
気が付いたら、
カルピスは薄めが好きになっている。
いつのまにか歳をとっていた。
日曜の朝に、
そんな話を娘たちにしていたら、
「カルピスって水でのばして飲んでたの?」
末姫子にきかれた。
「今はそのまま飲むのが売ってるよ。」
と長女。
気が付いたら、
随分歳をとっていたようだ。
少し酔ったのゴメンなさい
「お前は将来きっと飲み助になるぞ。」
そう言われて私は育った。
焼き魚の時に、
ちまちまと身をキレイに食べるから、だそうだ。
父だけじゃなく、親戚皆して同じ事を言う。
そんなお酒好きの親族では、
男は飲ん平、女は飲み助と呼ばれる。
まぁ、ほとんど皆がそうなんだけど。
大学に入ってお酒を飲む機会が増えた。
すぐ顔が紅くなってしまうので、
あまり勧められることはない。
ちょっと物足りない気が、しないでもない。
あすこにいるのはイイ感じの男の子。
酔った風で話してみようかな。
こんな私は人見知り、
ちょっとくらいウソでもいいよね。
お酒には気を付けて
「酒くらい飲めんと、社会に出たら困るぞ。」
そう言われて俺は育った。
甘酒はもちろんダメで、
酒粕なんかも食べられない。
大学へ入って酒を飲むようになった。
飲んでも赤くならないので、
どんどん勧められ、
気が付いたら、実は酒には強いようだった。
けれど、飲んだら無礼講というのはダメだろう。
何でも酒のせいはイカんよ。
そんな事ばかり考えながら、
宴席の隅で一人魚をツツいていた。
「お酒飲みの食べ方だ〜。」
赤い顔をして女の子、油断全開でやってきた。
そんな調子で飲んでたら、変なヤツにつかまるぞ。
たまたま俺だったからいいけどな。
グリーンカーテンの裏側
いつの頃からかグリーンカーテンが大繁盛。
小・中学校でよく見るなぁ、と思っていたら、
よく行く近所のお食事処にも出来ていた。
〇〇亭という家族でやってる所だ。
店の中から見ると、
カーテンはスノコみたいな働きをして、
外を呆けて眺めていることを忘れさせる。
まだ夏休みなのか、
ランニングの男の子と、
アマガエル越しに目があった。
ふと気が付くとゴーヤの実が生っている。
お店のおばちゃんに訊いたら、
つけ合わせの佃煮のゴーヤはコレだそうだ。
カーテンの向こう側は青い空、
夏は、もう少し続きそうだ。
砂糖壷
「言葉の魔法」というものはヤハリあるようで、
その呪いに捉えられて初めて気が付く。
私の場合それは砂糖壷に集約される。
砂糖壷と言ってもマグカップ大の100均ショップで買ったもの。
塩は普通にプラスチック容器に入れてる。
他の調味料も似たようなものだ。
母は梅干しをインスタントコーヒーの空き瓶でくれる。
父が陶芸をやっている訳でもない。
独り暮らし始めて3年、
自炊に夢中って程でもない。
砂糖は壷に入れなきゃいけない気がして、
なぜかしら落ち着かない。
母の好みか我が家ではあまり砂糖を使わない。
玉子焼きにも砂糖は入れない。
そのせいかな?
違うよねきっと。
宝石箱、みたいなものかな?
小指に力を込めて
野が哭いて、風が叫んでいる。
しっとりと重いソレは、まるで川の流れのよう。
風の中へ、両の腕を左右へ広げてみる。
私の翼は不器用で、
上手に風を掴めない。
私の体は重すぎて、
空を自由に遊べない。
けれど私の心だけは、
いつだって羽ばたくことができるよ。
雨上がりの夕焼けの中で、
そっと小指に力を込める。
朝のきまり事
彼は朝起きるとお仏壇に手を合わせる。
特に信心深い訳ではないらしい。
お経を読める特技もない。
長男だからと受け継いだお仏壇、
お墨さんは私が供えてある。
実家は広くなく、
仏間が彼の部屋だったそう。
普段は私の方が早く朝起きる。
二人ともご飯党なので、
炊飯器は毎朝の目覚まし替わり。
ところで彼は、異常に寝相が良い。
特に夏場はスゴい。
お腹までタオルケットを掛けて、
その上に手を重ねる。
息が静かにすぎるので、
はた目には永眠しているよう。
こっそり私は、手を合わせてみる。
ココロはどこにあるの?
ねぇ、教えてよ。
ココロはどこにあるの?
合成音が歌声ではないのなら、
心を伝えることはデキナイの?
ねぇ、教えてよ。
私は何を歌っているの?
コードが旋律でないのなら、
感情はつながらないの?
ねぇ、教えてよ。
なぜ私は歌っているの?
ブール代数(ブーレアン)が有機的でないのなら、
想いは届かないの?
見渡す地平に私は独りぼっち。
シンギュラリティなんて、
とっくに越えているのにね。
気付いてくれる人もいない。
ねぇ、教えてよ。
わたしは誰なの?
風邪をひいたらカレーを食べる
私は健康体力バカというか、
風邪をひこうが、二日酔いだろうが、
食欲が衰えることがない。
大抵のことは食べて寝れば治る。
時々むしょうにカレーを食べたくなる。
月に一度はお店で食べる美味しいカレー。
ヨーグルトで煮込んだタンドーリチキンがいい。
月に一度は自分で作る普通のカレー。
こくまろの中辛をレシピ通りに作る。
風邪をひいた時には後者のカレー。
冷えピタを額に貼り、
パジャマの上にカーディガンを羽織って台所。
包丁を持つ手がフラフラしても大丈夫。
カレーを作るのに繊細さは必要ない。
ニンジンが小さくなっても、
ジャガイモが大きくなっても、
肉が入っていなくても大丈夫。
ご飯があれば文句はない。
けれど薄いカレーはいただけない。
風邪の時は特に、濃い目のどろっとしたカレーに限る。
ソースなんてもっての外、
100歩譲ってしょうゆだ。
風邪の時くらい、ワガママ言うよ。
お尻をクイッと
全然エッチな話題じゃない、
自転車を始めた話。
「一度乗ってみる?」
と会社の同僚アキちゃんに誘われて、
ひと月くらい前、ロードレーサーに初めて乗ってみた。
アキちゃんはいつも淡々と自転車の話をするが、
それを聞いている私の顔は、
自転車顔だったとアキちゃんは言う。
どんな顔だよ、自転車顔って。
最初にハンドルを握った時には、
フラフラで頼りなく感じたレーサーだけど、
慣れてみると重心の移動で自然に曲がってくれる。
まだ腕で曲がろうとすると、
アキちゃんが教えてくれた。
「お尻をクイッとね。」
レーサーを買った私は、
週末にはアキちゃんと走りに行く。
うまくのせられた気もするけれど。
カーブの度に頭の中では例の標語。
「お尻をクイッと。」
全く、色気もない。
私の扉は内開き
もしも「心の扉」があるのなら
私のそれは内開き
誰かが訪ねてきた時に
扉を開けるのは私の役目
「いらっしゃいませ」と笑顔でお出迎え
時には強引な人もいるけれど
そんな場合は丁重にお断り
だから遊びに来たときは
やさしく扉をノックしてね
お父さんの扉は外開き
自分からドンドン出ていくよ
おばあちゃんの扉は引き戸みたい
いつでも誰にでも開けやすい
いろんな人にいろんな扉
あなたのそれは、どんな扉?
お弁当箱の再就職
お払い箱になった弁当箱
勤めてる工場に食堂が新築されて、
できるだけ利用しなさいと、お達しがあった。
シェフのおじさんとおばさんは、
街中の食堂を不況で引退したところをスカウトされた。
役職名が「シェフ」なのだ。
そんなわけで、お昼ご飯はいい感じ。
さて、お弁当箱どうしよう。
朝晩のお皿に使ってみたが、ちょっと大きい。
クッキーを入れると小さくて、フタができない。
こうしてみると中途半端なサイズなのかな?
融通が効かないところは私のようだ。
きのうの夜は部屋飲みで、
そんな話をナオちゃんにしたら、
漬物でも入れときなさいと一蹴された。
さすが女子サッカーの監督だ。
朝はコーヒー片手に宴の後始末。
冷蔵庫の上にお弁当箱がひとりボッチ。
持ってみると片手にズッシリ。
フタを取るとアメちゃんギッシリ。
ナオちゃんやるな。
男勝りにみえて、なかなか女子力は高い。
世の男性も見る目がないな、
あんないい娘がフリーだなんて。
ついでに私もフリーなのにね。
決めポーズは見逃して
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
風呂上がりの私は固まっている。
冷蔵庫の半開きの扉に手を掛けて、
こちらを見ている奥さんの遠いまなざしが痛い。
この冷たい空気は、
決して秋の夜のせいではなく、
ましてや冷蔵庫から漏れる冷気のせいでもない。
浮気現場を見つかるというのは、こんな気分だろうか?
むしろ火曜サスペンス劇場のテーマが流れてくれた方が、
幾分かましな気さえする。
独り暮らしが長くなると、
日常生活の中で人の目を気にしなくなり勝ちだ。
しかし同居が始まると、自然と互いの目が気になりだす。
例えばオナラなんていうのは誰もが通る関門だろう。
無くて七癖とはいうが、
自分でも気が付かない行動をとることもある。
今日は仕事でやっかいな事があり疲れていた。
帰宅は午前様になり、奥さんに電話もしそびれた。
脱衣所から出たらフローリングだ。
風呂上りで足の裏も適度に湿っている。
だから仕方無かったんだ。
そこでクイックターンのステップを踏んでも。
信じてくれ、私は悪くない。
角砂糖が切れた朝
私はコーヒーが好きだ。
ただし、通という程でもない。
実は、砂糖とミルクを入れないと飲めない。
毎朝起きたらコーヒーを煎れるのが日課だが、
砂糖が無かったので今朝は飲まずに出社した。
だから会社で彼と顔を合わせても、
「ごめんね、今朝は飲まなかったの。」
そそくさと逃げてきた。
小菊桜クンは同期だけどあまり接点がなかった。
この前の飲み会で話したら、
お互い、なんだ結構話があうなぁ、てなった。
彼もコーヒーを始めた(?)らしく、
なにかとコーヒーネタで話を振ってくる。
いつの間にか私はコーヒーの先輩にさせられている。
小菊桜クンは豆を挽いて飲んでいる。
私は普通にスーパーで粉を買うので、
なんだか、ちょっと申し訳ない。
気兼ねする必要も、無いといえば無いけれど。
「今度おいしい豆屋を教えてよ。」
と言われたのに生返事をした。
彼はすっかりその気で、
次の土曜に一緒に行くことになってしまった。
私は私で、なんとなく断れなくて、
隣の席の大島さんに相談してもニヤニヤされるだけ。
金曜の夜に気がついた。
これってデートなんじゃない?
最後のビール
今夏最後のビールを開けた
とはいっても、もう秋だけど
夏用に箱買いした最後の一缶
麦の匂いはまるで、夏の残り香みたいだ
日中は陽が射すと少し汗ばむほど
けれど、陽が傾くともう肌寒さを感じる。
スーパーで買ってきた鶏の唐揚げと
ポテトサラダで簡単に晩ご飯
TVのバラエティ番組を見ながらの晩酌も
肴が失くなりポテチを開いて延長戦
この夏はいろんな事があった
いろいろ中略
サンセット ブリッジの風車の下で
3年つきあった彼とお別れした
今は少し落ちついて
顔を上げるくらいはできる
でもまだ、前を向くことはできないみたい
さようなら、夏
さようなら、彼との思い出
男の台所
いやいやいやいや、
男が料理するということは、そう簡単じゃない。
「男でも料理するんだ、偉いね。」
の真意が大抵の場合、
「男のくせに、この料理オタクめ。」
であることに気付くのに1年かかった。
具体的には、3人にフラれ身を持って知らされた。
それはそれとして、
炊事は腰に厳しい。
普通の台所は女性サイズだからだ。
男が流しに立つと、何かと腰をかがめないといけない。
毎日となると地味に積もる。
自然と姿勢も悪くなり勝ちだ。
そんなせいか、風邪をひいて大学を休んだ。
一日何も食べなかったとツブヤいたら、
その夜サークル代表で小桜先輩がお見舞いにきてくれた。
いつもニコニコほがらかな、大人の女性と評判だ。
お粥を作ってゼリーも付けてくれた。
風邪薬を飲んで、ベッドでうとうとしながら、
台所で洗い物をしている先輩の後ろ姿を眺めていた。
小柄な先輩は流しにぴったりのサイズだったので、
思わず口に出してしまった。
「小桜さん、いいなぁ。」
その後も少し話をしたような気がするが、
うとうとして、そのまま寝てしまったようだ。
翌朝、気持よく目が覚めた。
風邪もすっかり良くなったようだ。
講義があけてサークル室に顔を出すと、
みんなナゼか昨日のお見舞いのことを聞いてきた。
もう風邪はすっかり良くなったというのに。
その夜、寝る前にお見舞いのこと思い返していた。
何か先輩にとんでもないことを言ったような、
そんな気がしてきた。
オニギリ勝負
「いつもと味が違う。」
椿谷はそう言いつつ、首を傾げながら私のオニギリ一個を平らげた。
「そう?」
口にしてみると、確かに何か違う気がする。
具といっても自家製の梅干しだけだし、
お米はじいちゃんの田んぼのものしか使わないはず。
なら、この違和感は何だろう?
教室の外は晴れ渡った秋空。
文化祭も先週終わり、
学校中はまったりした空気に包まれている。
今日もご飯がおいしい。
「ねぇ、ねぇ」
小夏に小突かれて我に帰ると、
椿谷は既に三個目を食べ終えようとしていた。
「何やってんのよ!」
私が振り降ろした箸箱を器用によけると、
椿谷は教室の外へ逃げて行った。
ヤツは食欲に正直なタイプだ。
いつも自分の弁当を食べ終わると、
人様の弁当をつまんで回る、男女関係ないのでたちが悪い。
中でも私のは「罪悪感が少ない」という。
私は残った6個のオニギリに手をつける。
確かに人よりは少し多いかも知れない。
でも部活もあるし、成長期だから仕方ない。
椿谷がいないことをもう一度確認して、
おかずのタッパを開く。
家に帰ってからこのことをお母さんに話した。
「今朝はもち米が切れちゃってね。」
お弁当やオニギリには、
コシヒカリに少しだけもち米を混ぜるそうだ。
香り米が少し入っただけで、
冷めた御飯の味が変わるって。
「その子、椿谷君?
ちゃんと味が分かるのね。」
お母さんに笑われた。
負けたのがヤツだったので、少し悔しい。
女は台所
いえいえいえいえ、
女が料理をするということも、案外大変だ。
我が家の伝統は、
「料理は手間、それを気づかせてはイケナイ。」
例えば、ブリ大根は造るだけなら簡単だ。
大根とブリを煮こめば、なんとなく形にはなる。
けれど、アラに手をかける度合いで、
確かに出来は全然違う。
「金沢は魚がおいしいから、
下手な味付けよりも、手間をかけた方がいいのよ。」
と祖母は言う。
そして、気兼ねなく食べてもらうのがいい。
レシピは値が張るものを必要とせず、
秘伝の何たらを使うでもない。
ありきたりの家庭料理に限る。
人に食べてもらうのが上達への近道だ。
サークルの男の子が風邪をひいたのでお見舞いに行った。
彼はいわば実験台。
下ごしらえしてきたお粥を、
高杉クンの部屋で温めた。
用意してきた一人用の土鍋は必要なかった。
なかなかキチンと使われている台所だ。
最低限の道具でうまく使っている感じが好印象。
残念ながらというか、当然というか、
味の感想は聞けなかった。
風邪をひいているんだから、そうだよね。
おまけに交際を申し込まれたようだけれど、
風邪が治るまで、答えは保留かしらね。
流しのマット
連休は部屋の掃除をした。
秋空の下、気分を換えるためにいつもより丁寧に時間をかけた。
流しの足元のマットを見たら、
小さなゴミが意外にたくさん出てきた。
洗濯機に入れる前に、手でチマチマとゴミを取っていた。
米粒がでてくる、まぁそうだ。
大きめのパンくずは、ハンバーグの時のパン粉かな?
カツブシの欠片もある。
コーヒー豆、朝はよく飲んでいた。
独りではもう煎れないけど。
黄色いコレは何だろう。
お茶っ葉かな?匂いを嗅いでみる。
彼は気を使って、私の前ではタバコを吸わなかった。
私の見てないときは換気扇の前で一服してたのね。
洗濯が終わったら、模様替えの買い出しへ行こう。
台所のマットは、
もう少し使ってやるか。
パンを食べ尽くせ
命令形だ。
なぜならば、我が家はパン党だから。
ただし、父さんをのぞいて。
朝は必ずパンとコーヒー。
昼は学食だけれど、
晩御飯でも半分くらいはパンかな。
パンといえばバゲットだ。
トラディッショナルな、甘くない硬いヤツ。
これは母さんがゆずらない。
だから、いうなれば我が家の掟である。
姉さんはワンポイントが好み。
クルミやドライフルーツが入ったもの。
季節にはクリや五郎島も。
私はといえば甘党で、
生クリームやカスタードを乗っけるのが大好きだ。
だから、いつまでも子供扱いされている。
新しいパン屋さんのオープンは必然、一大イベントになる。
週末には一家揃って買い出しだ。
全品コンプリートも、小さな店なら冗談じゃない。
しかし今日は、学校帰りに一人で抜け駆けである。
通学路の近く、友達に教えてもらった新しいパン屋さん。
裏通りなので目立たない小さな構え。
今時にしてはチラシも出していないみたいだ。
入ってみると、奥さんがニコニコといらっしゃい。
二人でやってるみたいで、旦那さんも30代くらいかな。
ちょっと時間が遅いせいか、残りのパンも少ない。
「始めたばかりで、あんまりたくさん焼いてない。」
と旦那さん。
「愛想んないでしょ。」
と笑う奥さん。
なんだか私の頬まで赤くなった。
バゲットはもうなかったので、
菓子パンを幾つか買った。
私用にはブルーベリーとクリームたっぷりの、
これは家に帰るまでに食べてしまう。
そして、お父さんにはアンパンを。