時給ミルキー1個
それが今日の荷運びに対する、私の値段だ。
大学、理系でも実験系では物を右左に動かすことも多い。
試料だったり、装置だったり、本だったり。
学科の共有物の場合には大変だ。
事務職員のお姉さん一人では、とても手が足りないので、
順番に講座を巡ってのお手伝いになる。
例えば、今日の私たちのように。
誰が言いだしたのか、皆は彼女を『姉(ねえ)さん』と呼ぶ。
どちらかといえばサバサバした性格だが、
アネキ肌やガテン系というほどでもないと思うのだが。
学生の私たちより少し年上という距離感からだろうか?
近くて、ちょっと遠い感じなのかもしれない。
こうして、私たちはお手伝いに駆りだされるのだが、
それが終わると『姉さん』は一人ずつにアメ玉をくれる。
ミルキーだったり、コーラ味だったり、
時にはキャラメルだったり、オカキだったりする。
特にこだわりはないらしい。
隣の講座のヤツが
「アメより焼肉がいい」
と言ったら、ニッコリ笑って軽くゲンコツをくれたそうだ。
これは院生から聞いたのだけど、
アメ玉代は講座費ではなく『姉さん』のポケットマネーだという。
Kと私はよく学科準備室へ遊びに行く。
そして『姉さん』とおしゃべりする。
『姉さん』はまた来たか、と手を休めることなく、
けれど話には付き合ってくれる。
Kがトイレに出て行って二人になった時、
会話が途切れて、私はアメ玉の入ったバスケットに眼がいった。
「お姉ちゃん、これ一個ちょうだい。」
『姉さん』は
「食べたかったら、手伝いしなさい。」
と笑った。
後で気が付いたのだけれど、
私には姉がいる。
もちろん、『姉さん』とは別人だ。
ミルキーもらったよ記念
一部実話が混じってます。