みずたま その2

私はしがない高校教師です。
しがないのは私で、高校は普通の県立です。
現国を教えています。
ええい、面倒くさい。
進学校でもないが、特にレベルが低いわけでもない、よくある高校だ。
それでも年に一人は面白い生徒がやってくる。
興味深いといえば聞こえはいいが、
とどのつまりは変わった人間ということだ。
目下のオススメは2ーCの清水だろう。
読みは「しょうず」だ。
とにかく面白い娘なのだが、残念ながら、
その良さは普通の高校生にはなかなか伝わらない。
もっぱら一部の教師の間での注目株というところだ。
高校生ともなると大半はケータイを使っているが、持たない生徒もいる。
親が持たせないのではなくて、
主義としてケータイを持たない子達も少なからずいる。
清水もそんな一人で、ケータイの時間感覚が嫌だという。
メールやソーシャル コムに追われる気がして、使いたくないそうだ。
そのせいもあってか、清水には落ち着いた印象がある。
ゆっくりと丁寧に話をする雰囲気だ。
とは言ってもそこは高校生、
よくよく聞いてみると何も考えていない事も少なくない。
そんな彼女の気質のせいか、教師には好かれるタイプだ。
少しタレ目気味なせいもあるかな。
私は司書だ。
図書室の司書なら国語の教師だろうという安直な意見がそのまま反映されたわけだ。
とはいえ安直なのは嫌じゃない。
普通や平凡はむしろ大好きだ。
なにより日常は終わることのないドラマだから、
日々平穏であることは大切だ。
図書室にはリクエスト・ボックスが置かれており、
入れて欲しい本や作家を用紙に書いて入れることになっている。
記名欄も一応あるのだが、書かれていないことも多い。
まじめな生徒、真剣に入れて欲しい本がある生徒は、
名前を書いている場合がある。
これが一つの「面白生徒」フィルタになっている。
去年、入学してすぐ目をひいたのが清水だった。
竹久夢二の画集のリクエストがあったのだが、
復刻版とはいえ、さすがに画集は高校図書室の予算ではなかなか手が出せない。
他に買える本が激減してしまう。
ちゃんと記名されていたので清水と話をしてみた。
湯涌にある夢二記念館のことを紹介したら気に入ってくれたみたいだった。
その後は天沢退二郎、小川未明、とリクエストが続いた。
高校生にしてはなかなかに渋い。
全般に大正時代が好みのようだ。
そんなわけで、清水を「大正ガーリー」と呼んでいる。
ちょっと意味が違う気もするが、私だけが呼ぶのだからよかろう。
これは、並の男子校生にはハードルが高いだろう、さすがに。
そんな清水は1年の後期から図書委員になった。
よく顔を合わせるので自然と話す機会も多くなり、
彼女もちょくちょく司書室へ遊びにくるようになった。
清水の少し大人びた外面が災いしたのか、
私のズケズケした物言いが幸いしたか、
彼女は他の人には話し難いだろう事も私と話すようになった。
私たちはそこそこ馬が合うようだ。
冬に交際していた彼氏とゴタゴタあったらしく、
結局そのまま別れてしまったようだ。
彼女にしては珍しく饒舌で、
それが彼女なりの感情のハケ口だったのかもしれない。
私に出来ることといえば、チャチャを入れながら話を聞いてあげるくらいだ。
恋愛指南や生活指導をするわけでもない。
そういうのは好きな大人にまかせておけばいいだろう。
振り返ってみれば、私も高校生の頃は大人の話なんか半分も聞いてはいなかった。
ゆっくり行きな清水、
アンタの場合、時間は味方よ。


変な方向へ続いてしまったかも、記念
思いつくままに書いて失敗する典型例