「いつもと味が違う。」
椿谷はそう言いつつ、首を傾げながら私のオニギリ一個を平らげた。
「そう?」
口にしてみると、確かに何か違う気がする。
具といっても自家製の梅干しだけだし、
お米はおじいちゃんの田んぼのものしか使わないはず。
なら、この違和感は何だろう?
教室の外は晴れ渡った秋空。
文化祭も先週終わり、
学校中はまったりした空気に包まれている。
今日もご飯がおいしい。
「ねぇ、ねぇ」
小夏に小突かれて我に帰ると、
椿谷は既に三個目を食べ終えようとしていた。
「何やってんのよ!」
私が振り降ろした箸箱を器用によけると、
椿谷は教室の外へ逃げて行った。
ヤツは食欲に正直なタイプだ。
いつも自分の弁当を食べ終わると、
人様の弁当をつまんで回る、男女関係ないのでたちが悪い。
中でも私のは「罪悪感が少ない」という。
私は残った6個のオニギリに手をつける。
確かに人よりは少し多いかも知れない。
でも部活もあるし、成長期だから仕方ない。
椿谷がいないことを確認して、
おかずのタッパを開く。
家に帰ってからこのことをお母さんに話した。
「今朝はもち米が切れちゃってね。」
お弁当やオニギリには、
コシヒカリに少しだけもち米を混ぜるそうだ。
香り米が少し入っただけで、
冷めた御飯の味が変わるって。
「その子、椿谷君?
ちゃんと味が分かるのね。」
お母さんに笑われた。
負けたのがヤツだったので、少し悔しい。
もち米が切れた記念
普段は5%くらい。