野生動物との距離

椋鳩十
カワウソの海
椋鳩十全集 20
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やっと読了。
思うところあって、ゆっくりと時間をかけて読みました。
今回、椋鳩十の作品を読んでみて改めて判ったのが、私の(野生)動物観というのは椋鳩十の影響を大きく受けているということ。
そして、それは日本に昔からある思想・理念に立脚するだろうことでした。
例えば、私は野鳥が好きでよく見るのですが、知識は大したものではなく、スズメとカワラヒワを判別できる程度です。
会社勤めの日常生活を送っていても、意外と多くの鳥が身近にいます。
金沢市は都市の規模の割に緑も多く、その外れに住んでいる私の周りでは一年を通じて様々な野鳥を見ることができます。
特に見に出かけていかなくとも。
中高生のころから意識して野鳥を見るようになったのですが、私は双眼鏡・望遠鏡を持ちません。
これらの道具は「野鳥(野生動物)と人との距離感を見誤らせる」と感じるからです。
プロのカメラマンが「ファインダーを覗くと怖さを感じなくなる」といいますが、基本的にはそれと同じ事だと思います。
最近では写メを撮る側のマナーが問われ問題になっていますが、昔は写真撮影の基礎として「ファインダーを除く前に自分の目で見ろ」と言われたものでした。
Gavin Maxwellの「かわうそ物語」は、カワウソの数が減少してしまったスコットランドを舞台にした、中近東原産のビロード カワウソのメルヘンと言えると思います。
余すところ無くカワウソの魅力を伝えることに関しては素晴らしい作品だと思います。
一方、椋鳩十の「カワウソの海」では、(当時の)動物園関係者、素人のカワウソ調査のみならず、欠くべからざるものとして漁師との関係も描かれています。
かつては魚の狩猟採取者として人と共存していたカワウソも、近代では養殖漁業の害獣としての面が描かれています。
毛皮目的の乱獲だけが日本のカワウソを絶滅へと追いやったわけではない。
この作品は言わば児童文学ですが、これからの野生動物と人との共存(その関係は常に形を変えていくだろう)について考えさせられることが沢山あります。
むしろ、なぜこれらの観点が日本人から欠けてしまったのか、そこにも大きな問題があると思うのですが。

G.Maxwell
かわうそ物語 -わが友ミジビル
毎日新聞社
1963
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