角砂糖が切れた朝

私はコーヒーが好きだ。
ただし、通という程でもない。
実は、砂糖とミルクを入れないと飲めない。
毎朝起きたらコーヒーを煎れるのが日課だが、
砂糖が無かったので今朝は飲まずに出社した。
だから会社で彼と顔を合わせても、
「ごめんね、今朝は飲まなかったの。」
そそくさと逃げてきた。
小菊桜クンは同期だけどあまり接点がなかった。
この前の飲み会で話したら、
お互い、なんだ結構話があうなぁ、てなった。
彼もコーヒーを始めた(?)らしく、
なにかとコーヒーネタで話を振ってくる。
いつの間にか私はコーヒーの先輩にさせられている。
小菊桜クンは豆を挽いて飲んでいる。
私は普通にスーパーで粉を買うので、
なんだか、ちょっと申し訳ない。
気兼ねする必要も、無いといえば無いけれど。
「今度おいしい豆屋を教えてよ。」
と言われたのに生返事をした。
彼はすっかりその気で、
次の土曜に一緒に行くことになってしまった。
私は私で、なんとなく断れなくて、
隣の席の大島さんに相談してもニヤニヤされるだけ。
金曜の夜に気がついた。
これってデートなんじゃない?


角砂糖が切れた記念
3日ほど砂糖なしでコーヒー飲んだ。

決めポーズは見逃して

どうしてこんな事になってしまったのだろう。
風呂上がりの私は固まっている。
冷蔵庫の半開きの扉に手を掛けて、
こちらを見ている奥さんの遠いまなざしが痛い。
この冷たい空気は、
決して秋の夜のせいではなく、
ましてや冷蔵庫から漏れる冷気のせいでもない。
浮気現場を見つかるというのは、こんな気分だろうか?
むしろ火曜サスペンス劇場のテーマが流れてくれた方が、
幾分かましな気さえする。
独り暮らしが長くなると、
日常生活の中で人の目を気にしなくなり勝ちだ。
しかし同居が始まると、自然と互いの目が気になりだす。
例えばオナラなんていうのは誰もが通る関門だろう。
無くて七癖とはいうが、
自分でも気が付かない行動をとることもある。
今日は仕事でやっかいな事があり疲れていた。
帰宅は午前様になり、奥さんに電話もしそびれた。
脱衣所から出たらフローリングだ。
風呂上りで足の裏も適度に湿っている。
だから仕方無かったんだ。
そこでクイックターンのステップを踏んでも。
信じてくれ、私は悪くない。


私は決して台所でステップを踏まない記念
一度もターンしたこと無いんだってば。

お弁当箱の再就職

お払い箱になった弁当箱
勤めてる工場に食堂が新築されて、
できるだけ利用しなさいと、お達しがあった。
シェフのおじさんとおばさんは、
街中の食堂を不況で引退したところをスカウトされた。
役職名が「シェフ」なのだ。
そんなわけで、お昼ご飯はいい感じ。
さて、お弁当箱どうしよう。
朝晩のお皿に使ってみたが、ちょっと大きい。
クッキーを入れると小さくて、フタができない。
こうしてみると中途半端なサイズなのかな?
融通が効かないところは私のようだ。
きのうの夜は部屋飲みで、
そんな話をナオちゃんにしたら、
漬物でも入れときなさいと一蹴された。
さすが女子サッカーの監督だ。
朝はコーヒー片手に宴の後始末。
冷蔵庫の上にお弁当箱がひとりボッチ。
持ってみると片手にズッシリ。
フタを取るとアメちゃんギッシリ。
ナオちゃんやるな。
男勝りにみえて、なかなか女子力は高い。
世の男性も見る目がないな、
あんないい娘がフリーだなんて。
ついでに私もフリーなのにね。


お弁当箱2号の再利用法を考えてた記念
なかなか難しい

私の扉は内開き

もしも「心の扉」があるのなら
私のそれは内開き
誰かが訪ねてきた時に
扉を開けるのは私の役目
「いらっしゃいませ」と笑顔でお出迎え
時には強引な人もいるけれど
そんな場合は丁重にお断り
だから遊びに来たときは
やさしく扉をノックしてね
お父さんの扉は外開き
自分からドンドン出ていくよ
おばあちゃんの扉は引き戸みたい
いつでも誰にでも開けやすい
いろんな人にいろんな扉
あなたのそれは、どんな扉?


涼しくなったので風呂を沸かした記念
ちょっと熱めでのぼせた

みずたま その2

私はしがない高校教師です。
しがないのは私で、高校は普通の県立です。
現国を教えています。
ええい、面倒くさい。
進学校でもないが、特にレベルが低いわけでもない、よくある高校だ。
それでも年に一人は面白い生徒がやってくる。
興味深いといえば聞こえはいいが、
とどのつまりは変わった人間ということだ。
目下のオススメは2ーCの清水だろう。
読みは「しょうず」だ。
とにかく面白い娘なのだが、残念ながら、
その良さは普通の高校生にはなかなか伝わらない。
もっぱら一部の教師の間での注目株というところだ。
高校生ともなると大半はケータイを使っているが、持たない生徒もいる。
親が持たせないのではなくて、
主義としてケータイを持たない子達も少なからずいる。
清水もそんな一人で、ケータイの時間感覚が嫌だという。
メールやソーシャル コムに追われる気がして、使いたくないそうだ。
そのせいもあってか、清水には落ち着いた印象がある。
ゆっくりと丁寧に話をする雰囲気だ。
とは言ってもそこは高校生、
よくよく聞いてみると何も考えていない事も少なくない。
そんな彼女の気質のせいか、教師には好かれるタイプだ。
少しタレ目気味なせいもあるかな。
私は司書だ。
図書室の司書なら国語の教師だろうという安直な意見がそのまま反映されたわけだ。
とはいえ安直なのは嫌じゃない。
普通や平凡はむしろ大好きだ。
なにより日常は終わることのないドラマだから、
日々平穏であることは大切だ。
図書室にはリクエスト・ボックスが置かれており、
入れて欲しい本や作家を用紙に書いて入れることになっている。
記名欄も一応あるのだが、書かれていないことも多い。
まじめな生徒、真剣に入れて欲しい本がある生徒は、
名前を書いている場合がある。
これが一つの「面白生徒」フィルタになっている。
去年、入学してすぐ目をひいたのが清水だった。
竹久夢二の画集のリクエストがあったのだが、
復刻版とはいえ、さすがに画集は高校図書室の予算ではなかなか手が出せない。
他に買える本が激減してしまう。
ちゃんと記名されていたので清水と話をしてみた。
湯涌にある夢二記念館のことを紹介したら気に入ってくれたみたいだった。
その後は天沢退二郎、小川未明、とリクエストが続いた。
高校生にしてはなかなかに渋い。
全般に大正時代が好みのようだ。
そんなわけで、清水を「大正ガーリー」と呼んでいる。
ちょっと意味が違う気もするが、私だけが呼ぶのだからよかろう。
これは、並の男子校生にはハードルが高いだろう、さすがに。
そんな清水は1年の後期から図書委員になった。
よく顔を合わせるので自然と話す機会も多くなり、
彼女もちょくちょく司書室へ遊びにくるようになった。
清水の少し大人びた外面が災いしたのか、
私のズケズケした物言いが幸いしたか、
彼女は他の人には話し難いだろう事も私と話すようになった。
私たちはそこそこ馬が合うようだ。
冬に交際していた彼氏とゴタゴタあったらしく、
結局そのまま別れてしまったようだ。
彼女にしては珍しく饒舌で、
それが彼女なりの感情のハケ口だったのかもしれない。
私に出来ることといえば、チャチャを入れながら話を聞いてあげるくらいだ。
恋愛指南や生活指導をするわけでもない。
そういうのは好きな大人にまかせておけばいいだろう。
振り返ってみれば、私も高校生の頃は大人の話なんか半分も聞いてはいなかった。
ゆっくり行きな清水、
アンタの場合、時間は味方よ。


変な方向へ続いてしまったかも、記念
思いつくままに書いて失敗する典型例

みずたま その1

後輩がカワイイ。
具体的には、小夏が可愛らしい。
小柄で、いつも何かしら動いているのでハムスターみたいだ。
今を生きているというか、
そう、あれだ。
恋に突っ走っているというヤツだ。
小夏は一年生。
図書委員で4月から一緒になった。
私は2年生で、ありきたりの目立たない2年生だ。
なんとなく馬が合うというか、私達はよく話をするようになった。
私は帰宅部で、小夏は理化部に入っている。
毎日何をしているのか聞いたら、
飼っている金魚にエサをあげているという。
それが高校生の費やす青春なのか?
いや、そんなことはどうでもいいことだ。
「先輩、どーしましょー!」
元気な小夏の語尾には、いっつも「!」が付いている。
なんでも、
部長が金魚にエサをあげているとか、
他の皆はいつも忘れているとか、
月に一度は部長が水槽を掃除しているとか、
目を輝かせて話す。
話の流れで小夏に聞いてみた。
「金魚…、好きなの?」
「え、えぇ、好きですよ?
金魚、カワイイですよねー!」
思わぬ反応があって、こっちが驚いた。
判りやすい子だ。
つまり、小夏はその部長に恋をしているという事らしい。
そんな感じで、楽しみが一つできた。
恋は落ちるものではなく、見守るものだ。
去年に私は色々あって、
正直そちら方面には近づきたくない。
手を貸すとか、応援するとか、
やりたくないし、できもしない。
高みの見物くらいなら、
見守るだけなら悪くはないだろう。
実際にやっている事といえば、
小夏の話を聴いているだけなのだから。
金魚の世話をコツコツやるくらいだから、地味なのだろう。
地味男(じみお)、と私が勝手に付けたあだ名の彼は、
あっさり正体が判明した。
2-Cのもう一人の図書委員である高科も理化部だ。
それとなく部長について聞いてみた。
「オレだよ、卓球大会で負けたから。」
理化部には現役3年生がいないので、部長は2年生というわけだ。
ヤツは成績がいい方で、典型的な文化系の外見。
なるほど、たしかに地味男だった。
なにせ図書委員やってるもんな。
面白いので、地味男の正体を知っていることは、
もう少しだけ小夏には秘密にしておこう。
当然ながら、図書委員で3人が一緒になることもある。
さすがに、委員の仕事では小夏もあからさまに素振りをみせない。
あからさまではないけれど、その実を知っている私から見ればバレバレだが。
遠くから彼をこっそり見ている小夏。
そっと後ろから肩をたたいてみる。
ゴメンネ、そんなに驚くとは思わなかったのよ。
でもね、ヤツは朴念仁だから、
直接はっきり言わないと伝わらないよ。
なんて事は言ってあげない。
秋口になり、放課後は少し肌寒くなった。
その日の図書室登板は私と高科だった。
私は帰りに本屋へ寄りたかったので、
一人早めに引けるつもりで支度していた。
ヤツには、今度タイヤキを買ってきてやるとか適当なことを言っておいた。
そこへ、小夏が図書室に入ってきた。
文庫本を読んでいた高科の前で止まると、
「家の手伝いを、ちょっとしないとイケナイので、
今日はこれで、先に失礼します!
部室にはまだ先輩方が残ってます。
えっと、部長に断わっておこうと思って。
さようなら!」
一気に言って出て行った。
彼は、あぁ、とか生返事をして、
特に慌てた様子もなく読みかけの本に戻った。
小夏は、いつもあの調子なのかな。
そのまま帰ってもよかったんだけど何となく、
高科の前で立ち止まり、言ってみた。
「本屋さんへ寄って行かないとイケナイので、
お先に失礼します。
えっと、部長に断わっておこうと思って。
さようなら!」
彼は一言だけ、
「タイヤキ、よろしく。」
くそ、腹が立つな。
タイヤキに毒でも入れてやろうかしら。


たまにはシリーズ物を、とか思った記念。
続くかなぁ?

お尻をクイッと

全然エッチな話題じゃない、
自転車を始めた話。
「一度乗ってみる?」
と会社の同僚アキちゃんに誘われて、
ひと月くらい前、ロードレーサーに初めて乗ってみた。
アキちゃんはいつも淡々と自転車の話をするが、
それを聞いている私の顔は、
自転車顔だったとアキちゃんは言う。
どんな顔だよ、自転車顔って。
最初にハンドルを握った時には、
フラフラで頼りなく感じたレーサーだけど、
慣れてみると重心の移動で自然に曲がってくれる。
まだ腕で曲がろうとすると、
アキちゃんが教えてくれた。
「お尻をクイッとね。」
レーサーを買った私は、
週末にはアキちゃんと走りに行く。
うまくのせられた気もするけれど。
カーブの度に頭の中では例の標語。
「お尻をクイッと。」
全く、色気もない。


自転車でカーブを曲がりながら考えた記念
語感ってけっこう大事だ。

風邪をひいたらカレーを食べる

私は健康体力バカというか、
風邪をひこうが、二日酔いだろうが、
食欲が衰えることがない。
大抵のことは食べて寝れば治る。
時々むしょうにカレーを食べたくなる。
月に一度はお店で食べる美味しいカレー。
ヨーグルトで煮込んだタンドーリチキンがいい。
月に一度は自分で作る普通のカレー。
こくまろの中辛をレシピ通りに作る。
風邪をひいた時には後者のカレー。
冷えピタを額に貼り、
パジャマの上にカーディガンを羽織って台所。
包丁を持つ手がフラフラしても大丈夫。
カレーを作るのに繊細さは必要ない。
ニンジンが小さくなっても、
ジャガイモが大きくなっても、
肉が入っていなくても大丈夫。
ご飯があれば文句はない。
けれど薄いカレーはいただけない。
風邪の時は特に、濃い目のどろっとしたカレーに限る。
ソースなんてもっての外、
100歩譲ってしょうゆだ。
風邪の時くらい、ワガママ言うよ。


風邪をひいたのでカレーを食べた記念
今回のカレーは85点でした

ココロはどこにあるの?

ねぇ、教えてよ。
 ココロはどこにあるの?
合成音が歌声ではないのなら、
 心を伝えることはデキナイの?
ねぇ、教えてよ。
 私は何を歌っているの?
コードが旋律でないのなら、
 感情はつながらないの?
ねぇ、教えてよ。
 なぜ私は歌っているの?
ブール代数(ブーレアン)が有機的でないのなら、
 想いは届かないの?
見渡す地平に私は独りぼっち。
シンギュラリティなんて、
とっくに越えているのにね。
気付いてくれる人もいない。
ねぇ、教えてよ。
 わたしは誰なの?


「積乱雲グラフィティ / Fallin’ Fallin’ Fallin’」好き記念

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朝のきまり事

彼は朝起きるとお仏壇に手を合わせる。
特に信心深い訳ではないらしい。
お経を読める特技もない。
長男だからと受け継いだお仏壇、
お墨さんは私が供えてある。
実家は広くなく、
仏間が彼の部屋だったそう。
普段は私の方が早く朝起きる。
二人ともご飯党なので、
炊飯器は毎朝の目覚まし替わり。
ところで彼は、異常に寝相が良い。
特に夏場はスゴい。
お腹までタオルケットを掛けて、
その上に手を重ねる。
息が静かにすぎるので、
はた目には永眠しているよう。
こっそり私は、手を合わせてみる。


そろそろタオルケットも終わりかと迷う記念
羽毛布団は絡まなかった。