雪 その2

「杖の選び」の後には,あかときの杖は光を発することはなかった.
そして,杖の後継者となったキャリオには何も良いことはなかった.
キャリオの日課は,先代の継承者であるおばばから伝承を伝え聞くことだった.
ひとつの伝承を聞き,それを暗証するまで憶える.そうしたら,また次の伝承を聞く.
ただそれだけのことであったが,それはキャリオだけに課せられた日課でもあった.
ただひとりで,おばばと二人きりの日々を過ごしていた.
この時期キャリオにあった唯一つのよいことは,一人の友達を得たことである.
はじめ,キャリオは杖の後継者に選ばれるはずであったフィルカに合わせる顔を持たなかった.
杖の後継者となったキャリオは,自然とまわりから距離をおかれた.
しかし,フィルカはそれを気にしていなかった.
またこのとき,はじめてキャリオはフィルカの立つ瀬を知った.
そして,時が経つにつれて二人は親交を深めていった.
六年の間,キャリオはおばばから伝承を教わった.
はじめは退屈な昔話であったそれはまた,古からの知恵でもあった.
語り継がれる中で意味の取れなくなったものもあったが,キャリオが理解し始めるとそれは輝きを増していった.
多くは竜族より伝えられ,人族によって鍛えられた魔法であり,大いなる時代には人々を導いたはずのものだった.
それは少しずつ,キャリオの体に染みていった.
杖の正式な継承者となり数年が過ぎたころ,あかときの杖は思い出したように再び光を発した.
そして,杖は人の言葉で語った.
「時はきた.
日の没するかわたれの地へ導け.
我の半身を支える杖を求めよ.
再び一つとなる時がきた.」
その年の冬が終わり,春がきてエイデルムスの雪が少なくなったころ,キャリオは西へ向けて旅立った.