都俣さんの亡命

「お世話になります.」
その一言とともにやってきたのは都俣さんだった.
実はこの数ヶ月仕事が忙しくて休みはほとんど寝てすごしていた.
もちろん公園へも行っていないので,都俣さんと会うのも久しぶりだった.
都俣さんは相変わらず礼儀ただしい.
ていねいな言葉使いは,しかし有無をいわせない.
かえす言葉を思いつかないうちに,都俣さんは玄関のあけた扉からすすと入ってきた.
器用にはりがねの足をふき,玄関の段差をよじ登る.
すぐにリビングがあって,
どうぞ,と私は座布団を差しだす.
おかまいなく,と都俣さんは遠慮する.
それでもすすめると,
どうも,と都俣さんは座る.
身長が15cmほどなので,座布団のまんなかに座ると都俣さんは,
大きなクッションに埋もれたお姫様みたいに見えた.
そう話すと,都俣さんは小首をかしげるような素振りをみせた.
個人情報の保護,主人への忠誠,魔法使い機械三原則.
そのほか諸々で,都俣さんが家出をした理由は話してくれない.
つまるところ,都俣さんは家を出たのだということが分かった.
分かったのはそれだけだった.
そして,一人と一個の共同生活が始まった.