都俣さんの終了

都俣さんとその主人の坂下さんの仲は,悪くはなかったが,
なぜか都俣さんは戻ることを拒んでいた.
そして,相変わらずその理由を言ってはくれなかった.
坂下さんが時々訪ねてくるようになった.
部屋の中で話をするのも気詰まりなので、
都俣さんと坂下さんと三人で公園へ行った.
そういうことが何回か続いた.
そして,もともと口数が少なかった都俣さんだが,
だんだんとしゃべらなくなっていった.
初夏のある日,部屋でうとうとしていると,
カタンと小さな音がした.
都俣さんが倒れていた.
何度も呼びかけたが,都俣さんは動かない.
そこにあるのは,ただの粗末な人形だった.
しばらくして坂下さんがやってきた.
虫の知らせがしたのだという.
彼女には,もう都俣さんを元に戻すことはできなかった.
そして,二度と都俣さんが動くことはなかった.