雑記

最終戦争後の世界は,それは生き残った者の方が苦しいといわれた時代だった.
かつての強権は消え去ったものの,人々の社会は至るところで崩壊してたし,更に崩れつつあった.
冠山が火を噴き,その煙が大地を覆ってから,大陸から陽の光が無くなった.
北方を覆っていた万年氷は次第にその勢力を増し,年ごとにその版図を拡大していった.
かの教団が滅びて後,世界を統べることはもはや苦しみでしかなかった.
収穫は日毎に減り,戦争で傷ついた者たちは飢え,また荒れた土地を追われるように人々が彷徨う.
そこかしこで略奪が行われ,人が人を殺す,生きるために.
かつて白い魔女と呼ばれたキャリオの法術も,この人々を救うことをできなかった.
年をおうごとに小さくなる人族の生活圏の中で,確実に減っていく人族.
そして最後の希望である東方の聖域.
竜族の魔法が施されたという森は,いまだに人族を寄せ付けず,
数百年に及ぶ沈黙を守りつづけていた.
人族にはもう時間がなかった.
1997. 8.14