どれくらい眠っていたのだろう.
ある日,光が差し込んだ.
最後に封がなされてから,恐らく100年は経っているだろう.
かすかな光は,壁板のすき間から漏れていた.
そのすき間が広げられ,小さな手と頭が表れる.
子供達が古くなった壁の一部を剥し,そこから入ってきたのだろう.
慎重な盗賊たちとは違い,子供らは自分達の仕業でほこりを盛大に巻き上げる.
そしてむせ返るが,慌てた所作がさらに事態を悪くする.
舞い立つほこりに慣れると,子供らは部屋の中をゆっくりと歩き回り,物色し始めた.
それもすぐに,めぼしいものがないことを知ると,
飽いたように走り回り始めるが,それがまたほこりを舞いたてる.
私の目が,そのうちの一人とあった.
その子は何かを見出そうとするように,私を見つめた.
喉まで出かかっている言葉を探すように.
やっと見つけ出した宝物に手を伸ばすように.
みんなが出ていった後も,その子はしばらく私を見つめていた.
他の子の呼ぶ声に我に返るまで,目を離すことがなかった.
それから,時々やってきては,彼は私をながめていった.
いつしか私の分身が彼の中に宿ったことを知った.
私は,数百年あまりの昔に一本の木から削り出された.
その彫師は名も成さず,その作品も多くがすぐに忘れ去られてしまった.
平凡な作品のなかでワタシだけが,
数ある偶然とそれより多くの必然から生まれ出た.
それ故に,私を含む存在は大切に保存され,
やがて宝として厳重に封印され今日まで残されてきた.
この子らが封を崩し穴をあけるまでもなく,
私は,多分あと数十年もしない内に朽ちて,消えてゆくだろう.
私は「木彫りの如来,
その右の二腕の線」にすぎない.
私は,ただ一つの線.
いくつかの幸運がはたらけば,
彼の手によって,私の分身が生み出されるだろう.
そのうちの幾つかは,人々を魅了し,再び種を蒔くかも知れない.
私たちは時空を越えてその存在を維持する,ひとの心を渡り歩く,渡り鳥のように.