私が生協の食堂についたとき,約束の時間に少し遅れていた.
彼女は,出口に近いいつもの席に座っていた.
声をかけずに私は彼女の向かいの席につく,
そして,彼女の手が止まるのを待つことにする.
彼女はすでに食べ終えたお昼ご飯のトレイを片方へ寄せていて,
2階の書籍部で買った本を紙袋から取り出した.
そして,本は横へ置き,その紙袋を手にした.
手慣れた手つきで紙袋の端をしごき,袋を開いていく.
裏返しにしたそれに本を載せ,現物合わせで折り曲げる.
そうして本にかぶせると,その紙袋が本のカバーになる.
「おまたせ」
とチハちゃんが席を立ち,そのままトレイを下げにいく.
帰りしなに私は席をたって,一緒に食堂を出た.
紙袋でブックカバー.
大学に入学して間もない頃,まだ友達と呼べる仲間もいないとき,
やはり生協の食堂で,私はこの光景をはじめて見た.
大げさに言うと,それは何かの儀式のよう.
その後に仲良くなったチハちゃんには,
だから,私はこのことは何も言わない,ただ見ているだけ.
彼女からも何も言わない,やはり聞かれたくはないんじゃないかな.
このあたりが,チハちゃんと私の距離なんだと思う.
たぶん.