旅に出る

波に揺られて,小さな船は大きく揺れていた.
船はゆっくりと走り出す.
波の上をバウンドしながら,だんだんと速さを増す.
やがて,飛行艇は水面を離れた.
防音の機体を通して,
小さなエンジンはゆっくりと声をあげていった.
熱核エンジンが人の住む島へ向かないように進むため,
私達の島を望むことはできない.
眼下に見えるのは,水平線までつきることのない海だけだ.
空は,青から紺へ,そして群青へと変わっていく.
エンジンの音が低い領域から,次第に高くなり,やがて可聴域を超えたころ,
名前のない多くの色を経て,漆黒の闇が上半球を覆った.
下半球には一面の海をたたえた星.
私が生まれ育った小さな惑星がひろがっていた.
上に向かって落ちていくような錯覚が襲った.
このときのためにみつあみにした髪が目の前で浮かびあがる.
乗客は私一人.
この星は海水面が地表の95%に達する.
人口の少ない星では軌道エレベータもダイソンリングも設営されない.
だから,恒星間連絡線は惑星軌道上まで接近して,軌道上で地上往還機と接続する.
小さいころ,修学旅行で軌道へ上がったことがある.
そのときは皆で,星を眺めた,楽しい思い出だ.
今日,私はこの星を離れる.
半年の遊学,数光年先の世界へ.