大学の一般教養というモノは,奇妙なものだ.
理学部での英語の講義なんかは適当でもいいらしい.
今期のクラスの課題は「ファッセンデンの宇宙」という短篇小説だ.というかSFだ.
これは,先生の好みでやっているのだろうか.
いつものように飲みに行って,このことをマサキに話していたせいか,
その帰り道には変なことを考えていた.
チハちゃんの宇宙は,とても豊かな世界だろう.
彼女は本をたくさん読む.
色んな世界を知っている.
私に話してくれるものだけでも,びっくりするっくらい多彩だけれども,
それ以外にも,それ以上に多くの世界を知っているのだと思う.
チハちゃんは良く気がつく.
道を歩いていても,私には気がつかない鳥や木や虫や,
何でも見つけて感じているようだ.
ふと会話が途切れたときに,
彼女の視線を追っていると,それは色んなものを見ているようだ.
チハちゃんのメガネは,私の知らない,見えない,世界を見ているのだろう.
少し,うらやましい.
私の宇宙は?
多分,水たまりに映った星空のよう.
小さなもの,一部分の写しにすぎないけれど,
それでも私だけの宇宙.
一滴の水つぶてで壊れてしまう.
短い一生のはかない世界かな.
一つの生命は一つの宇宙.
マサキもいつか結婚して人の親になるのだろう.
自分が結婚するなんて想像できないが,
マサキがお母さんになることは容易に目に浮かぶ,おそらく誰にでも.
それがマサキの性質だ.
その子らも,やがてまた人の親となり,
増えてゆくその血筋は,それが一つの宇宙.
それがマサキの宇宙なのだろう.
そのことがとても自然に思える反面,
自分には叶わないように感じられるのは,何故だろう.
街灯で少し薄くなっているけれど,満天の星空の下.
マサキは,小さな水たまりを見て何か考えている風.
あんたって,なんだかねぇ.
飲んだ帰り道に変なことを考えているのは,いつものことなんだけど.