物語は始まらない 11

何事にも不文律があり、
それを破ることは時には大きな痛手を被ることになる。
昼ご飯を食べようと思い、
キッチンへ行き冷蔵庫の上のフランスパンを手にした。
そうだ、オープンサンドにしよう。
こないだチハちゃんに教えてもらった煮豚がまだ残ってた。
まだ味付けをしてない煮豚を薄切りにして使おう。
フランスパンを包丁でスライスする。
一枚かじってみるが、まだ少ししっとりしている。
中サイズのトマトを輪切りにして、…
でもレタスがない。
替わりになるものはないかと探してみるがキュウリもない。
それよりも、味付けはどうしよう?
煮豚に合わせて醤油かける、これは違う。
ケチャップとソースで簡単デミグラス、ちょっとクドいかな?
と悩んでいたら、助け船がやってきた。
キッチンへ入るなり、惨状を目の当たりにしたチハちゃんは、
「こないだのアレ、まだ余ってる?」
何かと聞いたら、
「野沢菜のお漬物」

チハちゃんから聞かされた、素人が料理でやってはいけないこと、それは、
「和洋中は混ぜたらダメ」
私が具材を余らせたり、何か足りないと、
「いつも買い物する時に何を使って作るか考えなさい」と言われてしまう。
野沢菜を軽く水切りして、一本味見してみる。
「何とかなるでしょ」
とチハちゃんは言った、ちょっと呆れたような体ではあるが。
フランスパンに野沢菜を並べ、
その上に角煮、トマトを重ねる。



「チーズだとピザみたいだから、バターは無い?」
最後の一欠片だけ、乗っけた。
しようがないので、他のものにはスライスチーズを乗せた。
チハちゃん味付けは?
「そうねぇ…コショウだけでいいじゃない?」
そっか、野沢菜に塩味があるから、
あんまり味付けはくどくしないほうがいいかも。



最後にチハちゃんは自分のカバンから紙袋を取り出した。
タイムを開封して、すこーし振りかけた。
こんなこともあろうかと?
ではなくて、たまたま切れたので買って帰るところだったそうだ。
「このタイム、マサキにあげるよ」
鳥なんかは塩、コショウ、タイムだけでけっこう雰囲気が出る。そうだ。
オーブンで10分ほどサンドを焼く、ちょっと焦げ目が付くくらい。
挽いておいたコーヒーは止めて,飲み物は紅茶にした。



二人で食べてみたが、そんなに悪くない。
「何とか形にはなったんじゃない。」
チハちゃんから及第点をもらった。
でも食パンとかローストビーフだとかだとこうはいかなかったかな。
最後にやはりチハちゃんは言った。
「和洋折衷とか考えたらダメよ、買い物する時にちゃんと考えてね。」
実は私はこの味をけっこう気に入った。
これをもう少し工夫して私のレパートリーに加えようと思ったことは、
当分の間はチハちゃんには秘密だ。