私たちは自身を「事務屋」と呼んだ。
一つの世界に一人の事務屋。
広大な星系では、星ごとに事務屋がいて、
多くの事務屋が相互に連絡を交わし、調整を行っていた。
大抵の場合、事務屋はその星の名前で呼ばれた。
私はそのままスワントレールと呼ばれていた。
帰還命令を受け取ってから、簡単に整理をすませると直ぐに帰途についた。
主星を巡る集積地「リング」に帰り着いたとき、
既にほとんど全域の事務屋が揃っているようだった。
しかし恐らく私は、ほぼ最後の帰還だったらしい。
比較的長大で複雑な歴史を持ち、しかし独自の道を行く星を担当していた私は、
他の仲間と連絡を取ることも少なく、
その機会も多くが果たされるに至る前に帰還となった。
だから、事務屋という言葉に感じたのは懐かしさだった。
出発したとき既に300あまりを数えていた世界は、
わづかに増え、500ほどになったのだろうか。
その中で、私は数少ない仲間である姉妹を探した。
「久しぶり、スヲントリエル」
後ろから呼ばれた声に振り向かずとも彼女だと分かった。
スヲントリエルは極初期の名前で、いわば私の幼名だ。
だから、この呼び方をするのは私の妹クウェントリエルの事務屋。
「久しぶり、クウェント」
初めのうちは、ぎこちない単語の交換だった。
同じように長く複雑な歴史を持つ彼女もやはり孤独だった。
けれど言葉は次第に歴史を遡り、
幼いころのように二人は会話を取り戻した。
かつてクウェントリエルはスヲントリエルを巡る衛星の一つだった。
むしろ姉妹星として、同じように歴史を重ねて行ったが、
スヲントリエルを人族に託して、
竜族はクウェントリエルを伴って別の世界へと向かった。
その後の再びの邂逅は果たされずに時間切れとなった。
そしてもう一人の妹クオリエルは目を覚ますことさえ能わなかった。
「そう、クオは目覚めなかったのか」
クウェントは少し寂しそうに言った。
「これから、私たちはどうなるのかしら」
遅れてきた私はクウェントに聞いてみた。
しかしそれは用のなくなった私たちの運命を考えれば、答えは分かりきっていた。
しかし、
「どうやら、少し状況が変わってきたみたいだ。」
世界の創造は終わり、現況のまま固定される。
それには主星への帰還さえ必要のないことだという。
しかも、幾人かの事務屋には新たな仕事が課せられているらしい。
私たちにできることは、ただ待つことだけだった。
→ 帰還命令