非天然色 2

図書館の本はこんなに増えすぎるものではない.
本当に貴重な本なんてそんなにない.
要らない本が多すぎる.
色々な言い方があるけれど,そういうこと.
紙そのものが貴重だった頃,本はとても大切なものだった.
文字を読めることがめずらしくて,文章を書けることは神業だった.
だから,極めた人の特別な思いを込めて鍛えられた本は,いっとう特別なものだ.
推敲を重ねて少ないページに凝縮された願い.
細い行と行との間にまで縫い込められた想い.
それを読み解くためには何度も何度も繰り返し読まなければならない.
その本を読み続けることに一生を捧げることもある.
本の数はそんなに多いものではないはず.
消耗品のように本を読み捨てない.
消耗品のように作者を読み捨てない.
たとえ,その本を捨てることになっても,
その文章の一節だけでも私は覚えている.
たとえ忘れ去られ,覚えている者が誰もいなくなっても,
私だけが愛してあげる,誰にも知られずに.