男の台所

いやいやいやいや、
男が料理するということは、そう簡単じゃない。
「男なのに料理するんだ、偉いね。」
の真意が大抵の場合、
「男のくせに、この料理オタクめ。」
であることに気がつくのに1年かかった。
具体的には、3人に振られ身を持って会得した。
それはそれとして、
台所は腰に厳しい。
普通のシンクは女性サイズだからだ。
男が台所に立つと、何かと腰をかがめないといけない。
毎日となると地味に積もる。
自然と姿勢も悪くなり勝ちだ。
そんなせいか、風邪をひいて大学を休んだ。
一日何も食べなかったとツブヤいたら、
その夜サークル代表で小桜先輩がお見舞いにきた。
いつもニコニコほがらかな、大人の女性と評判だ。
お粥を作ってゼリーも付けてくれた。
風邪薬を飲んで、ベッドでうとうとしながら、
台所で洗い物をしている先輩の後ろ姿を眺めていた。
小柄な先輩はシンクにぴったりのサイズだったので、
思わず口に出してしまった。
「小桜さん、いいなぁ。」
その後も少し話をしたような気がするが、
うとうとして、そのまま寝てしまったようだ。
翌朝、気持よく目が覚めた。
風邪もすっかり良くなったようだ。
2日振りの授業を受けながら、
お見舞いのことを思い返していた。
何か先輩にとんでもないことを言ったような、
そんな気がしてきた。


洗い物は腰にくるよね記念
いつかプロの料理人になって自分サイズの台所を造る…
そんな野望は今のところ無い。