おろしがね

大根やじねんじょをオロシガネでおろすと,だんだん小さくなっていく.
小さくなると力が入らなくなるので,そこでおしまいになる.
母はいつも,指先ほどの大きさになると,それを嬉しそうにポンと口に入れていた.
「残りものにはなんとやら…」とかいいながら.
あまりに楽しそうなので,どうしてって聞いたことがあった.
「ほらっ,擦っていくとだんだん小さくなるでしょ.
そうするとなんか濃くなっていくの.
最後のひとかけは,すごい栄養が詰まっている気がしない?
料理するひとの役得ね.」
母の理屈はよく分からない.
そんな母を放っておけなくて結婚したという父の方にわたしは似たらしい.
いつものことなので,適当にあいづちを打ち,半ば呆れながらわたしは聞き流した.