都俣さんの祝日

座敷に腰かけ,靴を履いているとクラッカーがまだ3個残っている.
そのうち一個がコースターの上に乗っていて,ちょうど魔法使いの三角帽みたいに見えた.
ふと都俣さんを思い出した私は,そのうちの一個をもらって帰ることにした.
会社の忘年会はいつもの居酒屋での,ささやかな宴会だった.
一番若い○野君が気を利かせてクラッカーを買ってきた.
みんなの都合が合わなくてクリスマスの前々日になったからだ.
うちの部署は平均年齢がそこそこ高い.
彼といっしょにはしゃぐ者は少なく,暖かく見守る者の方が多い.
それなりに○野君も楽しんだようだが,やはりクラッカーは余ってしまった.
2時間もすると,家族が待つ者や約束を持っている人達が,早めに席を立ち始める.
クリスマス前の今日は土曜日だ,それも仕方がない.
私も適当に挨拶して,その場を出ようとした.
クラッカーを手にした私は,
振り返って見ると○野君は奥の方で楽しそうに話をしていたので,
断るのは今度会社でいいだろうと,一人言ちてそのままポケットにクラッカーを忍ばせて,
居酒屋を後にした.
今度,彼女に会ったときにこのことを話そうと思い,
そんな,ちょっとしたことに幸せを感じている自分が,時々可笑しくなりながら部屋へ歩いて帰った.