「お前は何も知らんのだな,わしを,このハルブアルを知らぬ竜族がおろうとは.」
竜は巨躯を横たえたまま,頭だけを巡らせて,うなるように話し始めた.
「私は竜族じゃない,人族だ.」
老竜は怪訝そうにうなり,息を吐き出した.
それはハルブアルにとっては笑いだったのだが,
始めて巨竜に出会ったシリオンには知る術もなかった.
「そうか,お前たちが『いそぎすぎた者』たちか,
なるほど,羽根も尻尾もないときておる.
高貴な蜥蜴共とも違うようだな.
非力な上に使う言葉も幼稚ときておる.」
ハルブアルは満悦そうに一人言ちた.
「この剣を持っていくがいい.人の子よ.
こいつはわしが昔,おろかなものどもから守ったものだ.」
この剣は”最後の時”に運命の者が手にするものだ.
これをやろう,『最後に表れた者』.
そして,お前の好きに使うが良い.
『水の舞』はどこへ渡ろうとも,
いつも必ずお前たちの許へ帰ってくるだろう.
必要な『その時』にはな.」
そして,その剣は人族の手に渡された.