私には,3つ下の妹と4つ下の弟がいる.
小さい頃からその二人の面倒を見てきたせいか,私は両親に甘えるのがどうも苦手なようだ.
それでなくても,性格的には不器用な父に似たらしく,父母にあまり素直になれない自分がいる.
普段はとても健康なので,めったにない風邪をひいた時は,だから私には特別だった.
その日だけは,母を独り占めにできたからだ.
直りがけには必ず作ってもらったのが,「温っためた牛乳」だった.
冷めないうちに飲んでしまおうと焦るのだけれど,
熱いので息をかけて冷ましながら,少しずつ飲む.
母はそんな時,私が飲み終わるまで,必ず側で見ていてくれた.
それはいつも作ってくれる「温っためた牛乳」とは違い,とても甘く,やさしい味がした.
実は,風邪の時だけハチミツを少し入れたのだということを,私は後になって知った.
ホットミルクを作るのは,ちょっとした儀式のよう.
冷蔵庫から牛乳パックを取り出す,
マグカップで計量してミルクパンにあける.
角砂糖を1個ないし2個入れる,時々は黒糖もいい.
弱火にかけるけれど,目を離すことができない.
ほんの少しでも泡が立つと,すぐさま火を止めなければいけない.
「あんたはトロいさけ,特にねぇ.」
とチハちゃんに言われるので,ミルクを温めている間は,何もすることができない.
もともとホットミルクが好きなので,よくミルクをレンジでチンしていた.
去年の誕生日に,チハちゃんがミルクパンをプレゼントしてくれた.
その日から,彼女の指導のもと(?),ミルクパンは大活躍している.
だから,ミルクパンで作るホットミルクはいつも二人分.
お湯を注いで温めてあるマグカップも,二つ.
秋と冬の夜は寒くて長いけれど,
今日はそんな夜もいつもよりちょっと短い.