君の歌を聴かせてよ

笛吹きケトルが鳴らなくなった。
ある寒い冬の午後、
近所のちょっとおいしいパン屋さんで買ってきた、
最近お気に入りのパウンドケーキがあった。
紅茶を淹れようとケトルを火にかけた。
10分もあればお湯は沸くだろう。
読みかけのラノベを開いて枝折を手にとる。
私はページを読み進めた。
表紙買いで初めて手にした著者の本は、
私の趣味にはあまり合わなかった。
幾ページかも進めないうちに、
本を閉じて放り出し、台所へ向かう。
ラノベが面白くなかったのが幸いした。
お湯はチンチンに湧いていたが、
しかし、ケトルは鳴っていなかった。
とりあえず火を止めて、
ケトルのフタを確認する。
フタをきちんと閉じないことはままある。
大雑把な私だから、珍しくない事だ。
しかし、今回は違った。
フタと笛口を確認し幾度か火にかけたが、
やはりケトルは鳴かなかった。
「お願いだから、
もう一度、あなたの歌を聴かせて」
未練がましいったらありゃしない。
これはただの笛吹きケトル。
5年前に彼と選んだモノだから。


笛吹きケトルが調子悪くなった記念
だんだん低音になっていく.