都俣さんの亡命

「お世話になります.」
その一言とともにやってきたのは都俣さんだった.
実はこの数ヶ月仕事が忙しくて休みはほとんど寝てすごしていた.
もちろん公園へも行っていないので,都俣さんと会うのも久しぶりだった.
都俣さんは相変わらず礼儀ただしい.
ていねいな言葉使いは,しかし有無をいわせない.
かえす言葉を思いつかないうちに,都俣さんは玄関のあけた扉からすすと入ってきた.
器用にはりがねの足をふき,玄関の段差をよじ登る.
すぐにリビングがあって,
どうぞ,と私は座布団を差しだす.
おかまいなく,と都俣さんは遠慮する.
それでもすすめると,
どうも,と都俣さんは座る.
身長が15cmほどなので,座布団のまんなかに座ると都俣さんは,
大きなクッションに埋もれたお姫様みたいに見えた.
そう話すと,都俣さんは小首をかしげるような素振りをみせた.
個人情報の保護,主人への忠誠,魔法使い機械三原則.
そのほか諸々で,都俣さんが家出をした理由は話してくれない.
つまるところ,都俣さんは家を出たのだということが分かった.
分かったのはそれだけだった.
そして,一人と一個の共同生活が始まった.

おはぎミックス その4

なんというか,都俣さんの造形は雑だ.顔は目だけ.横一本線の瞼と縦一本線の瞳,こけしほどの愛想もない.手足が針金というのもアレだが,ともすれば,その手足も本体とつながっていない.というか,服の中には中身がない.一度,挨拶をするときに帽子を脱ぐと,帽子を被っている部分の頭がなかった.
体は雑な都俣さんだが,仕事をもくもくとこなす.相変わらず,人の少ない時間の公園で,空き缶をゴミ箱へ捨てたり.小さなゴミを拾い集めている.ちなみに,人が多い時間に活動すると,子供たちにオモチャにされてしまうのだそうだ.
私はというと,時々公園へやってきては都俣さんの邪魔にならない程度におしゃべりをしている.
「良い天気ですねぇ」
「今日は春分ですね」
他愛もないことを,他愛もなく話す.邪魔をしていないつもりだが,それも微妙かも知れない.
今日も都俣さんはもくもくと働く.


都俣さんの続きを考えてます

アンプがとうとうお亡くなりに? DVDもCDも何もかも全ての音声が出ない…
仕事の画像処理のプログラミングで,アルゴリズムの高速化.なかなか思うように速くはなってくれないのですが,面白いですね.ともすれば,これまで書いたコードすべてを高速化したくなります.まだ1年ちょっとなので,たいした量は書いてませんが.

おはぎミックス 3

都俣さんと出会ったのは、自宅の裏の公園だった.
たまの日曜の夕方,近所をぶらぶら歩くのだ.この近所にも子供は少ないらしく,夕暮れ時の公園はいつも人気がない. 30過ぎの男では,一人で公園に入るのにも,ちょっとした気遣いが必要な御時世である.
ベンチに座って,タバコをくゆらせていると,目の前を空き缶が転がっていた.それを転がしていたのが都俣さんだった.
私が都俣さんに気づいたことに都俣さんが気がつくと,一旦手を止めた.そして軽く会釈をして,都俣さんはまた空き缶を転がし始めた.自分の身長の半分程もある缶なのだ,
というよりも,都俣さんは空き缶の倍程の背丈しかない.その姿を目で追っていると,ゴミ箱の前で止まった都俣さんは,空き缶を投げ上げてストライク.折り返して,また私の前を通りかかり,また会釈した.そこで,私は始めて都俣さんに話かけたのだった.
魔法が解禁されて,はや150年余り.魔法は,珍しいものではなく,むしろ飽かれた存在と言って良い.高位の魔法使いが空を飛んでいるのを見ることもあるが,いなかではまれだ.かつてゴーレムだったものたちは,今は工事現場で重機と呼ばれている.もとより私は魔法や科学に強い方ではない.都俣さんのようなもの達は,確か「自律式魔法使い機械」という類のものだったと思う.
「わたくし,トマタと呼ばれております.」というのが都俣さんの言葉.都俣という宛字は,私が勝手につけた.少し話をするうちに,これは自動応答みたいなものだと気が付いた.縦にした空き缶サイズの都俣さん.もとより,高度な魔法を使用しているはずもなく,簡単な受け答えができる程度なのだった.
しかし,言葉を少し交わすと,都俣さんには不思議な心地よさがある.式を施した人物の,さりげない上品な気くばりが感じられる.だから,私の中ではトマタではなく,都俣さんになってしまった.それから,私は時々この公園へやってきては,都俣さんと言葉を交わすようになった.

自律式魔法使い機械(字余り)

「SFは絵である」とは野田大元帥のお言葉ですが,私にとってSF絵描きといえば加藤直之さんと鶴田兼二さんです.
SF画家 加藤直之
とりあえず,絵をざっと眺めて,文章をちまちま読んでます.
載っている作品は,かなり少なくガッカリ感も多少ありますが,その分一つ一つの作品の解説が詳しいので,ゆっくりと楽しめそう.
ちなみに今日のせたトップの写真は,学生時代に中国旅行で撮ったものです.
オリジナルも白黒フィルム(ネオパンSS)で,カメラは親父のオリンパスのOM-1(Newじゃない!)でした.
シャッターも機械式,電池が切れても露光を感覚(?)で計測して全然平気でしたよ.
機械に頼れない分,今よりも頭で考えていた気がします.
それが当り前だったんですよね.

ひろげた制服の背中にぶちまけたグラニュー糖のよう?(c)竹本泉

頭の中で,いろいろと考えていた妄想が,形になるときがある.バラバラだったものが一つになったり,延々と続いていたものがいつの間にか初めの所に戻って来たり.
作り始めた物語が自然に広がって,本筋とは関係のないところで脇役の不可解な人物が勝手にでてきました.彼はすぐに物語からは消えてしまうのですが,気になって彼について去年の後半からずっと考えていたんです.すると,それまでバラバラだったピースが次々とはまっていき,本当の筋が見えて来ました.そして,物語の作り始めにやっとたどり着き,円環ができました.
5年ほど前から,考えていた「おはなし」なんですが,ずっと終りにたどり着けずに,うじうじ考えていました.もともと「物語の終り」がテーマの一つだったのですが,その終りが決まらない.結局,ポンと出てきたキャラが物語をひっかきまわし,お話を完結してくれました.なんというか,トリックスターですね.
実は本編は一晩のおはなしで,その発端を考えているうちに,長いおまけの前史ができました.前史はあくまで,本編を組み立てる上での骨組みなのですが,おまけがきちんと形着いて,おはなしがまとまりそう.おはなしが完成するのには,後2,3年かかりそうですが.

おはぎミックス その2

春が来た.
家族皆で砂丘へ出た.
私は母に手を引かれて,海岸まで長いこと歩いた.
今日は村だけでなく,市街からも多くの人が海を見に来ている.
風はまだ冷たいが,日差しは少しづつ暖かみを増していた.
氷のきしむ音は数日前よりも小さい.
風に流されてゆっくりと動く氷は,所々に隙間を見せ,数ヵ月振りの海面を覗かせていた.
人々は最善を尽くした.
20世紀の後半から始まった温暖化に対して,21世紀の始めには本格的な備えを開始していた.
大規模な植生と動物相の移転さえ段階的に始められていた.
予想通りに温暖化が進んでも被害は最小限に抑えられるはずだった.
2011年は最も暑い年だったが,その翌年から大寒波が世界を襲った.
「反転」は唐突だった.
その後,世界は急速に寒冷化していった.
北大西洋暖流が消滅すると欧州は真っ先に暑い氷河に覆われた.
間宮・津軽海峡が陸続きになり,対馬海流の流入が止まると日本海は冷たくなった.
日本海側でも冬は乾燥し積雪は極端に少なくなったが,流氷は舞鶴まで覆うようになった.
槍ヶ岳では今後数十年のうちに氷河が生まれるらしい.
この冬には医王山で雷鳥が見られたそうだ.
午後遅くに,敦賀からの連絡船がやってきた.
遠くに船影が見えると喚声があがったが,やがて着岸に備えて人々は寡黙に働き出した.
船が手取港に着くまでにはまだ数時間あった.

昨日の肉ジャガですます

今日はちょっと遅めに帰宅したうえ、寒さが増しているので。
メモ:民放の根幹を揺るがす、ある深刻な事態
テレビCMの限界が見え始めた
ネットに軸足を移し始めた巨大広告主たち
面白いですね。
時代の転換点となるのでしょうか。
これを機にテレビとプログラムが面白くなることを期待します。
おはぎミックス その1
だれだかが、落していったもの
どうしてだか、目があってしまったの
小さな音のカケラ
仕方なく拾ってポッケに入れる
それが3日前の出来事で
思い出したのはつい今しがた
「音」はだいぶ熔けていて、ずいぶん小さくなっていた
困ったので、そのまま、お猪口に入れた
日本酒の中で、きらきら光って
もっと小さくなって消えた音
そんなわけで、今日のお酒は、ちょっと美味しい

やっぱり最後

木曜から休みだったのですが,木曜は天気がよかったので大掃除は忘れて街中へ出てみました.
21世紀美術館も歳末で休みだったので(当たり前),兼六園でぶらぶらしようとしたら思いのほか天気が良すぎてそこらじゅうの木から雪が解けた水がポタポタと雨のように.
傘が必要なくらいだったので,あきらめて本屋めぐりへ.
探してた本が「うつのみや」本店で見つからなかったので,「アニメイト」へいってビックリ.
エレベータから出たとたんにメイドさんとバッタリ.
メイド喫茶ができていたんですねぇ,金沢にも.
日記のスクリプトを改良して,rdfにも写メールの更新を入れて,最新5件分を載せるようにしました.
FOAFっていうのも面白そう.
30日の夜は火納め.
今年最後の自炊で,今年最後の卵焼きや今年最後の焼き魚や,今年最後のご飯炊き.
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○○君,ゴメンナサイ.
あのとき,後ろから蹴とばしたのは,ワタシです.
ダイジョウブ?と言いながら,心の中で舌を出していたのはワタシです.
骨を折って入院したアナタを見て,ザマーミロと思ったのもワタシです.
全部ワタシです.わたし,でした.
だってあの日,急に話しかけてくるから.
“以外だな,あんたでも泣くんだ”
ワタシは風に弱い目を持っていて,強い風にあたるとすぐ涙ぐむ.
眼鏡を外してハンカチで拭いていたワタシを見てアナタが言った.
かっとなってワタシは,それから妙に意識してしまった.
いままでなんとも思わなかった分,なおさらに.
意味もなくそのことにイラついた.
理由なんて考えもしなかった.
今のわたしなら,ちゃんと言えるだろうか?
「なにバカなこと言ってんの」と軽くあしらって,
そして,始められるだろうか.
5年前にできなかったことを.