欠片の続き

「科学」は人を月や火星へ連れて行ってくれた.
しかし,恒星の世界はあまりにも遠かった.
そして人は,星の世界へ乗り出すことができなかった.
星が,人の世界へ舞降りてきた.
子供たちが隣町から遊びに来たように,
彼らはいとも簡単に数百光年を飛び越えてきた.
「魔法」という技術を携えて.

欠片のひとつ

かつて科学がそうであったように,「魔法」もはじめは一部の選ばれた者のみが修めることのできる学問であった.
しかし,やがてその敷居も低くなり,義務教育となると,「魔法」もつまらない授業の一つとなった.
授業は,ただ何の理由もなくつまらなかった.
窓の外には,そして,空は,ただ何の理由もなく青かった.
ただ何処までも,理由もなく,青かった.

雪 その4

幾つかの国を飲み込んできた冬がこの地にも近づいていた.
古王国の境界を巡りイオルマインとキャリオは,東の海に辿り付いた.
マクの古王国は遥かな昔から誰一人近づくことを許さなかった.
今や最後の希望であるそれは,今もなおその扉を閉ざしつづけていた.
エイデルムス沿いにこの岸を更に北上し,一月ほど行くと彼女の故国がある.
彼女の邦でも,この時期に雪が降ることは稀であったという.
ましてや,この南の地では,かつて雪が降ることはなかった.
再び雪が降り始めていた.
じきにこの国も終わることのない冬に飲み込まれてしまうだろう.
それはまた,全ての世界が雪と氷の下に消えていくことでもあった.
雪が降っていた.
それは,ただ静かに降り続けた.
(終わり)
PC関係
メルコのLUA-KTXを買ってみました.
見たとおりの製品ですが,携帯に便利そうです.
使ってみると,けっこう発熱します.

雪 その3

まだ雪の残るエイデルムスを越えた後,キャリオは仲間と分かれた.
西へしばらく行くと小さな村があり,その宿泊が予定された最後のものだった.
それから先は,キャリオは一人きりになった.
なれない足取りで一週間ほど歩いたとき,小さな草原を通り過ぎた.
草原にはまるでクレバスのような幾つかの谷が隠されており,その底には細いせせらぎが陽光を受けてきらめいていた.
最初にその割れ目に出会ったときキャリオは恐れを感じたが,しばらく歩いているとその変化に富んだ光景に感嘆さえ覚えていた.
草原を抜け半日ほど行くと放牧された馬たちがおり,やがて村が見えた.
その村では,その草原を「雪の原」と呼ぶのだといった.
そうして,キャリオは幾つもの村や町を経て,一つの大きな街へたどり着いた.
フメウエというその町で,キャリオは多くのことを知った.
かつて平和な世界を統べた竜の血を受け継ぐ王家は既に伝説の中に消え去ったこと.
教団と呼ばれる存在が今は世界を支配していることを.
二百年前に駆逐されつくした法術は,公には魔法と呼ばれなおを忌み嫌われた存在であること.
小さな村や町では今だに魔法は細々と生き残っていること.
その町を過ぎて,キャリオは再び西へと向かった.
旅をはじめて一年余り,そうしてたどり着いたのは都のあとだった.
かつて「イリティヨン」と呼ばれ,世界の中心であったその土地は,今は巨木のうっそうと生い茂る森があるだけだった.
なぜだかキャリオは,この森に,大きな木達に親近感を覚え,イリティヨンに留まった.
多くの旅人がこの地に立ち寄り,早々に立ち去っていったが,ここは今でも要衝の地であるらしかった.
そうして数週間が過ぎた頃,キャリオは北からきた一人の少年と出合った.
キャリオより一回り年下の少年はシリオンと名乗った.
今日の疑問
NHKのニュースを見てたら,ちょっと面白いダブルクォーテーションを使ってました.
普通は「”」で開いて「”」で閉じますよね.
でもNHKでは閉じが「,,」(下付き,コンマが二つ)でした.
いつからこうなんでしょうか.
今日の思い出し疑問
Titan [A.E.]のA.E.ってAfter Earth?

雪 その2

「杖の選び」の後には,あかときの杖は光を発することはなかった.
そして,杖の後継者となったキャリオには何も良いことはなかった.
キャリオの日課は,先代の継承者であるおばばから伝承を伝え聞くことだった.
ひとつの伝承を聞き,それを暗証するまで憶える.そうしたら,また次の伝承を聞く.
ただそれだけのことであったが,それはキャリオだけに課せられた日課でもあった.
ただひとりで,おばばと二人きりの日々を過ごしていた.
この時期キャリオにあった唯一つのよいことは,一人の友達を得たことである.
はじめ,キャリオは杖の後継者に選ばれるはずであったフィルカに合わせる顔を持たなかった.
杖の後継者となったキャリオは,自然とまわりから距離をおかれた.
しかし,フィルカはそれを気にしていなかった.
またこのとき,はじめてキャリオはフィルカの立つ瀬を知った.
そして,時が経つにつれて二人は親交を深めていった.
六年の間,キャリオはおばばから伝承を教わった.
はじめは退屈な昔話であったそれはまた,古からの知恵でもあった.
語り継がれる中で意味の取れなくなったものもあったが,キャリオが理解し始めるとそれは輝きを増していった.
多くは竜族より伝えられ,人族によって鍛えられた魔法であり,大いなる時代には人々を導いたはずのものだった.
それは少しずつ,キャリオの体に染みていった.
杖の正式な継承者となり数年が過ぎたころ,あかときの杖は思い出したように再び光を発した.
そして,杖は人の言葉で語った.
「時はきた.
日の没するかわたれの地へ導け.
我の半身を支える杖を求めよ.
再び一つとなる時がきた.」
その年の冬が終わり,春がきてエイデルムスの雪が少なくなったころ,キャリオは西へ向けて旅立った.

雪 その1

エイデルムス(東方山脈)は大陸の東端に位置し,その向こうには大洋が広がっている.
その山と海に挟まれた細長い土地には,とぎれとぎれに森が広がり,その森に守られるように小さな村々が点在し,人が住んでいた.
そこは東の最果ての国と呼ばれたが,それでもかつては恵まれた土地であった.
主公家の臣家たるトラウスバニズの一族がこの地にやってきたのは二百年ほど昔である.
「力ある宝玉」の一つに数えられながら失われていた「氷水晶」の探索に雪の原へ赴いた彼らは,その半身である「あかときの杖」を見出した.
しかし,丁度このころ起こった騒乱は,故国の一族を滅ぼし,残るトラウスバニズをも根絶やしにせんと探し回った.
このため彼らは「あかときの杖」と共にエイデルムスの東側に身を隠し,故国へ帰ることができなくなった.
やがて,この地に定着した彼らの子孫は,密かに「あかときの杖」を代々受け継いでいった.
しかし,時がたつにつれて一族の血は薄まり,かつては人族にして最高と称えられた法技もほとんど失われた.
あかときの杖も,いまやその半身を映すことのない氷水晶を支えたまま,トラウスバニズの名とともに継承された.
かつては杖自身が後継者を選んだと言う「杖の選び」の儀式も,ただ密かに行われる祭りごとの一つになっていた.
キャリオが儀式に参加したのはこの頃である.
「杖の選び」には齢九つ前後の四人の少女が杖の継承者の前に召喚される.
このときの杖の後継者は,既にフィルカに決められていた.
彼女は賢く歳の割に大人びていた,何よりも彼女の父は村の指導者の一人である.
だから,キャリオが儀式に加わったのは,単なる数合わせに過ぎなかった.
形式ばった儀式が九割方終わり,後継者選びの段になったときそれは起こった.
社殿の奥にこもった五人の前で,杖がこの百年あまり見せることのなかった仄かな光を,キャリオの頭上で放った.
杖は何度も四人の前で往復されたが,あかときの杖が選んだのは彼女であることは明らかだった.
杖の継承者は,杖が光を発したことを自らの手柄のように受け止め,先走って後継者をキャリオとした.
儀式が全て終了してからこのことを知った村の者たちは思わぬ結果をいぶかしんだが,結局は儀式という習慣を破ることは憚られた.
こうして,キャリオは流されるままにトラウスバニズを名乗る杖の継承者となってしまった.

4月の陽気

□ 思い出したこと
「思い出エマノン」 のエマノンは40億年の記憶を持っています.
ふと思い出したのですが,私も以前に「5億年の歴史を内包する」人を考えたことがありました.
話はこうです.
時間に取り残された人々の一団がとある惑星にたどり着きます.
そこで彼らは,先住民に出会います.
それは,人によく似た,しかし大きな翼と尻尾を持った”竜人族”の末裔でした.
竜人族は,個人の記憶を遺伝子の隙間に焼き付け,それを代々受け継いでいきます.
そうして長い記憶の物語を紡いでいく語り部の一人,クレイオは5億年に及ぶ銀河史を語る力を持っています.
また,竜人族の話す言葉はめまぐるしく変化するため,「生まれてから死ぬまで決して同じ言葉を使わない」と言われます.
その言葉は円環状の遺伝子から発せられ,彼らには会話と音楽の区別が無いのです.
そして,人はその言葉を理解することは出来ません.
竜人族の役割は「語り部:時空を超越した存在からの案内」,「後見人:人類を導き育てる存在」,そして「壁:人類が闘い,乗り越えるべき存在」です.
この一連の物語の中で,彼らには更に悲壮な運命が用意されています.
架空叢書案内.4
「ハ-バ-ドおばの犬」
おばがその犬にコルリと名前を付けたのは,その犬がコルリ種だったからだった.
おばはそういう人だった.
ハ-バ-ドおばとコルリの織り成す一風変った日常生活のポ-トレ-ト.
言葉の音訳,といっても一概ではありません.
モービル,モビール,モバイルやローカル,ロケールや.
文化的な背景や,時代によっても変わるようです.
Corlyがコリーなら,コルリでも小瑠璃でもいいじゃないか.
ただそれだけのことなのですが.
1988 -『四十と八の物語』より

日々平穏

□ 読んだもの
「イルカの島」 A.C.Clarke,
やっぱり「SF」だなぁ.と思ってしまいました.
がしかし,私のSF観はクラークさんの影響を多大に受けているので,
「SF=クラーク作品」という安直な図式なのかも.
60年代の作品ゆえか,彼の望みか,はたまた作品としての面白みのためか,
イルカがかなり賢く描かれています.
私としては,イルカはイルカとしての知性を備えているのではないかと思います.
人と同列には測れないような.
一方では,犬と同じように家畜として,人の友達として,人間社会に組み込まれていくのかも.
その後にはD.ブリンのSFのように?
架空叢書案内.3
「スペイン袖」
学生時代に中国へ(遊びに)行ったのですが,そこで不思議な体験をしました.
ばったり出会った人が,私が以前から絵に描いていた人だったのです.
ナゼでしょう?
スペイン袖,という言葉は,そんな感覚を思い出させます.
一つの言葉が思い起させる不思議な感覚.
その感覚をふと共有した少年と少女.
出会ったときには二人はお互いの言葉を知っていた.
言葉が結ぶ人と感情の物語
1988.11.27 -『四十と八の物語』より

日々の糧

スーパーで買った小皿をじっと見る.
魚の絵が目を引きました.
□ 読んだもの
「えっちーず 5」陽気婢,
「スクール 2」OKAMA,
どちらの作家さんも永らく読ませて頂いています.
えっちだけど,えっちだから,いいのかなぁなどと思うのですが.
架空叢書案内.2
「カレンフェルト」
「自分は生まれるのが遅すぎた」と感じたことはないでしょうか.
「自分が生きるべき時代が,とうに過ぎ去っていた」と感じることが.
この物語は,最後に
「あなたは来るのが遅すぎたのだ.」
と語られるために作られた物語です.
生れる時代を間違えた者のための物語.
時を隔てた恋はどうして起こり得たのか.
その終りの姿はいったい残酷なものだったのか?
また,この物語は後の「一つ光の物語」の礎となります.
1989. 3.17 -『四十と八の物語』より