夏の夜の音

頭上でドンと音がする.
大っきな衝激が体一杯に降り掛かる.
パラパラと音がするから,
赤や青にキラメキながら,
光が拡がっているのね.
私の右手を包む,
その左手がやさしいから,
隣の貴方は,
口を空いて音のする方を見上げてるね.
眼を閉じて,うつむいているのは私.
瞳を明いたら涙がこぼれ落ちそう.
だから今は,
そっと右手に力を込めるね.


犀川花火記念.

髪を切った。

髪を切った。
どうしてなんて訊かないでよ。
梅雨が明けたから、じゃ足りない?
失恋しなきゃ、切っちゃイケナイ?
肩に少し持たれるくらいだった髪。
時々、ゴムで繰々るほど。
ちょっとだけ思いきって、
いつもより短くした。
後ろを少しカリアゲてやった!
これでもう、頭クシャクシャされても平気。
効果半減、ザマーミロ!
「もっと伸ばせよ。」
なんて、二度と言わせない。
髪を切った。
どうしてなんて訊かないで。
アンタにだけは聞かれたくない。
=====
散髪記念
■追記 7/29
シュシュをどっかで入れようと思ってて、忘れた。

ああもう、いじくらしい

ああもう、いじくらしい。
キミは優柔不断で、考えすぎで、
いつも一歩を踏みだしてくれない。
あと一言を言葉にしてくれない。
そこはアレじゃない、
キミがリードしてくんなきゃ。
ちょっと待ってよ、そうじゃないでしょ?
折角の日曜に、こんないい天気なのに。
あーヤダ。
私の左手がキミの右手を握る。
乱暴に走り出す、前だけを見て。
引っ張りまわすわ、ついて来てよね。
私の好きにさせてね、今だけは。
追記
高校生の頃見た夢です、
立場は逆でしたが。
今考えると、
彼女の気持ちは、こんなだったかなぁと思います。

君に会いに行くよ

君に会いに行くよ
 幾つもの偶然と、それより多くの必然で、
 奇跡のように出会った私たち。
 彼女ばかり見ていた君、
 私はまるきりオマケだったね。
 ただ、驚いていた、この不思議。
君に会いに行くよ
 彼女は先に独りで帰ってしまった。
 あの娘に何も伝えられず、
 途方に暮れていた君。
 二つの世界はあまりにも遠かったよね。
 取れて行ってあげる、私たちの星へ。
君に会いに行くよ
 よかったね、あの娘に会えて。
 想いの丈を伝えられて。
 でも、云ったじゃない?
 あの娘には彼氏がいるって。
 落ち込まないで、よくあることでしょ。
君に会いに行くよ
 いいかげん、下を向くのをやめて、
 私まで落ち込んでしまうわ。
 元気を出して、いっしょに行こうよ、あなたの星へ。
 でもね、間違えないでね、
 これは恋じゃないんだから。
君に会いに行くよ
 300光年の距離を越えて、
 千年の歴史を飛んで。
 防疫システムなんて知らないよ。
 すぐに覚えるわ、言葉なんて。
 今の、この想いを君に伝えに行くよ。


2003年5月頃に考えていたSFです。
歌詞っぽくまとめようと思いついてから、一月かかりました。
結果、歌詞っぽくなってないなぁ。

もう、振り向いてなんて言わない

いつも待ってばかりだ、私は。
 朝の通学路
 いつもより早く着いた教室で
 時々独りで食べる昼食
 終礼から教室を出るまでの一瞬
あなたは授業中、外ばかり見ている。
数学が得意で、社会の時間は資料集を丹念に読んでいる。
罫線のない無地のノートに綺麗な字を書く。
どうして私を見てくれないの?
こんなに想っているのに。
言葉にできないこの気持ちは、だから届かない。
あなたが早く、私を見つけ出して。
そうしたら、世界の全てが変わっていくのに。
心の中でいつもつぶやく、
お願い振り向いて、私を見つけて。
奇跡は起こらない。
偶然は都合よく私たちを出会わせてくれない。
落としてしまったハンカチも、
他の誰かがひろってしまう。
雨のバス停も人が一杯。
このままずっとすれ違って終わってしまうの?
でも、もう嫌なの。
もう待たないと決めた。
私があなたを見つけたんだもの。
だからもう、振り向いてなんて言わない。
勇気が貯まるにはまだ一月くらいかかりそう。
もうすぐ私の気持ちを言葉にしてあなたに伝える。
だから、夏が始まる前に世界は変わるはず。
今年はきっと忘れられない夏になる。

帰還命令の続き

私たちは自身を「事務屋」と呼んだ。
一つの世界に一人の事務屋。
広大な星系では、星ごとに事務屋がいて、
多くの事務屋が相互に連絡を交わし、調整を行っていた。
大抵の場合、事務屋はその星の名前で呼ばれた。
私はそのままスワントレールと呼ばれていた。
帰還命令を受け取ってから、簡単に整理をすませると直ぐに帰途についた。
主星を巡る集積地「リング」に帰り着いたとき、
既にほとんど全域の事務屋が揃っているようだった。
しかし恐らく私は、ほぼ最後の帰還だったらしい。
比較的長大で複雑な歴史を持ち、しかし独自の道を行く星を担当していた私は、
他の仲間と連絡を取ることも少なく、
その機会も多くが果たされるに至る前に帰還となった。
だから、事務屋という言葉に感じたのは懐かしさだった。
出発したとき既に300あまりを数えていた世界は、
わづかに増え、500ほどになったのだろうか。
その中で、私は数少ない仲間である姉妹を探した。
「久しぶり、スヲントリエル」
後ろから呼ばれた声に振り向かずとも彼女だと分かった。
スヲントリエルは極初期の名前で、いわば私の幼名だ。
だから、この呼び方をするのは私の妹クウェントリエルの事務屋。
「久しぶり、クウェント」
初めのうちは、ぎこちない単語の交換だった。
同じように長く複雑な歴史を持つ彼女もやはり孤独だった。
けれど言葉は次第に歴史を遡り、
幼いころのように二人は会話を取り戻した。
かつてクウェントリエルはスヲントリエルを巡る衛星の一つだった。
むしろ姉妹星として、同じように歴史を重ねて行ったが、
スヲントリエルを人族に託して、
竜族はクウェントリエルを伴って別の世界へと向かった。
その後の再びの邂逅は果たされずに時間切れとなった。
そしてもう一人の妹クオリエルは目を覚ますことさえ能わなかった。
「そう、クオは目覚めなかったのか」
クウェントは少し寂しそうに言った。
「これから、私たちはどうなるのかしら」
遅れてきた私はクウェントに聞いてみた。
しかしそれは用のなくなった私たちの運命を考えれば、答えは分かりきっていた。
しかし、
「どうやら、少し状況が変わってきたみたいだ。」
世界の創造は終わり、現況のまま固定される。
それには主星への帰還さえ必要のないことだという。
しかも、幾人かの事務屋には新たな仕事が課せられているらしい。
私たちにできることは、ただ待つことだけだった。
帰還命令

物語は始まらない 11

何事にも不文律があり、
それを破ることは時には大きな痛手を被ることになる。
昼ご飯を食べようと思い、
キッチンへ行き冷蔵庫の上のフランスパンを手にした。
そうだ、オープンサンドにしよう。
こないだチハちゃんに教えてもらった煮豚がまだ残ってた。
まだ味付けをしてない煮豚を薄切りにして使おう。
フランスパンを包丁でスライスする。
一枚かじってみるが、まだ少ししっとりしている。
中サイズのトマトを輪切りにして、…
でもレタスがない。
替わりになるものはないかと探してみるがキュウリもない。
それよりも、味付けはどうしよう?
煮豚に合わせて醤油かける、これは違う。
ケチャップとソースで簡単デミグラス、ちょっとクドいかな?
と悩んでいたら、助け船がやってきた。
キッチンへ入るなり、惨状を目の当たりにしたチハちゃんは、
「こないだのアレ、まだ余ってる?」
何かと聞いたら、
「野沢菜のお漬物」

チハちゃんから聞かされた、素人が料理でやってはいけないこと、それは、
「和洋中は混ぜたらダメ」
私が具材を余らせたり、何か足りないと、
「いつも買い物する時に何を使って作るか考えなさい」と言われてしまう。
野沢菜を軽く水切りして、一本味見してみる。
「何とかなるでしょ」
とチハちゃんは言った、ちょっと呆れたような体ではあるが。
フランスパンに野沢菜を並べ、
その上に角煮、トマトを重ねる。



「チーズだとピザみたいだから、バターは無い?」
最後の一欠片だけ、乗っけた。
しようがないので、他のものにはスライスチーズを乗せた。
チハちゃん味付けは?
「そうねぇ…コショウだけでいいじゃない?」
そっか、野沢菜に塩味があるから、
あんまり味付けはくどくしないほうがいいかも。



最後にチハちゃんは自分のカバンから紙袋を取り出した。
タイムを開封して、すこーし振りかけた。
こんなこともあろうかと?
ではなくて、たまたま切れたので買って帰るところだったそうだ。
「このタイム、マサキにあげるよ」
鳥なんかは塩、コショウ、タイムだけでけっこう雰囲気が出る。そうだ。
オーブンで10分ほどサンドを焼く、ちょっと焦げ目が付くくらい。
挽いておいたコーヒーは止めて,飲み物は紅茶にした。



二人で食べてみたが、そんなに悪くない。
「何とか形にはなったんじゃない。」
チハちゃんから及第点をもらった。
でも食パンとかローストビーフだとかだとこうはいかなかったかな。
最後にやはりチハちゃんは言った。
「和洋折衷とか考えたらダメよ、買い物する時にちゃんと考えてね。」
実は私はこの味をけっこう気に入った。
これをもう少し工夫して私のレパートリーに加えようと思ったことは、
当分の間はチハちゃんには秘密だ。

物語は始まらない 10

せっかくの日曜は雨。
この一週間は降り通しだ。
梅雨だから、といってしまえばしょうがない。
今日は珍しく早くに目が覚めた。
6時だけどもう明るい。
朝ご飯は簡単に、
冷ご飯に、菜っ葉のお浸し、卵焼き。
カブラの浅漬け。
10分ほどで終わる。
しばらく文庫本を読む。
2、3時間たった。
洗濯機を回す、40分ほど本の続きを読む。
洗濯物を部屋の中に干す。
紐を張って、ワイヤーのハンガー
部屋いっぱいに湿気が広がる。
Tシャツにドライヤーを充ててみる。
気温は高いので、ちょっとあてると、そこはすぐに乾いていく。
すぐに諦めた。
湿気が増しただけだった。
扇風機をかけて、せめてもの抵抗を試みる。
お昼ご飯はチャーハン。
教育テレビを見ているうちにうとうとする。
そのまま昼寝。
蒸し蒸しして目が覚める。
ちょっと汗ばんでる、首筋が機持ち悪い。
6時すぎになって、スーパーへ行く。
クーラーの効いた店内は気持ちいい。
晩ご飯を何にしようかゆっくりと考えながら、買い物を楽しむ。
店から出ると、とたんに現実にひき戻される。
しかし、部屋に戻ると更に湿気がこもっている。
夜になり、雨は小ぶりになる。
かすかな雨音を効きながら、眠りにつく。

物語は始まらない 9

その日は朝から秋晴れで、空が青く高かった。
四講目が急に休講になったので、同じ授業を取っている私とマサキは時間を持て余した。
校舎から一歩外へでると、吹く風が顔に冷たい。
日が傾き始めると秋の空気は一気に冷えてくる。
どちらから言うでもなく、すぐ目の前の生協の喫茶店に入ることにした。
小綺麗だけど、ちょっと古びた感じの店内は気兼ねなくくつろぐにはもってこいだ。
街中のいわゆる小洒落たお店というのは、何とはなく気が張ってしまって落ち着けない。
マサキは紅茶を、私はココアを注文する。
ココアは好きだけど、手間がかかるので自分ではあまり作らない。
だから、こういうお店に入ったときには遠慮せずに味わう。
もっと本格的な喫茶店では、本当においしいココアが味わえるが、
この喫茶店のココアも丁寧に作られた味がする。
何でもない話をして小一時間ほどヒマをつぶした後、私たちは店を出た。
母へケータイすると、
「いい魚でもあったら、買ってきて」と言われた。
今日の夕食にはタンパク質が足りないって。
城南ストアに入って鮮魚コーナーへ向かう。
途中の牛や豚は素通りする、
最近はどんどん値段が上がっていくのでなかなか手がでない。
鶏もそんなに安くはない。
結局、養殖のアジを五尾買った。
少し残ってもアジならなんとかなるだろう。
玄関をくぐると、肉ジャガのいい匂いが鼻をくすぐる。
そっか、こないだもらったジャガイモが少なくて、
肉ジャガだけではおかずが足りなくなったんだ。
「ただいま」
だったら他のおかずにすればいいと思うのだけれど。
母は、それでも肉ジャガを作る人だ。
食べたい、作りたい、と思ったら後先考えずに作り始めてしまう。
そして私は足りないものを買いに行かされる。
自然と、家へ帰る前に私は母に電話をするようになった。
台所に入って手を洗う。
ちょうど母がカボチャを切り終えたので、包丁を借りる。
出刃包丁はまな板の上に置かれ、私はそれを手に取る。
この家では、絶対に刃物を手渡ししない。
それはもともと母の実家のルールだったらしい。
どちらかというと「ゆるい」母と我が家だけれど、
このルールだけは母が徹底して守らせている。
買ってきたアジを三枚におろすのは私の役目。
私は母から魚の扱い方を教わったが、
母は私にそれを教えて以来、自分で魚をさばくことを一切しない。
三枚におろした骨身から中落ちをスプーンで丁寧にとる。
身が付いていると火が通りにくい。
炊飯器が鳴って、カボチャも煮えたようだ。
母はお味噌汁の準備を始める。
アジは酢漬けにした。
グリルにいれたアジの骨は10分ほどで焼ける。
少し焦げ目がつくくらいが香ばしくて丁度いい。
母と私はボリボリとかじりながら、夕食の支度を続ける。
アジせんべい、は決して晩ご飯の食卓にはのぼらない。
これはそういうものだ、とは母の弁だ。

布団乾燥器の夢

日曜の夜は寒かったので、
風呂を炊いてゆっくり浸かり、
布団乾燥器をかけた布団に入って寝た。
北陸の冬は湿っぽい。
ていうか、一年中湿っぽい。
だから、布団乾燥器はトテモありがたい存在だ。
世の中は不景気で、将来は不安だらけだ。
けれど、もし、幸せへの近道があるとしたら、
そこにはきっと、布団乾燥器があるだろう。
なんだこれ。